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- 2018/01/31 掲載
なぜ明暗?5兆円節税に沸くアップル、「波」を逃したアマゾン
連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤
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比類なきアップルの節税効果、なんと5.5兆円
アップルは米国に持ち帰る現金の約12%に当たる300億ドル(約3.3兆円)を向こう5年間で、米国内に新社屋の建設やデータセンターの増設に投資するほか、新規に2万人の従業員を雇用すると発表している。トランプ氏はツイッターへの投稿で、「私の政策は、アップルなどの企業による米国への大量資金還流を可能にした」と自画自賛した。
米ニュースサイト『アクシオス』は、「税制改革により、米国は法人税率の低いアイルランド並みのタックスヘイブン(租税回避地)になった」と評している。
さらにトランプ大統領は翌18日に、アップルの社員に対する一人当たり2,500ドル(約27万7,000円)の自社株ストックオプションのボーナス支給について、直々にアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)に電話を入れ、「私にとって名誉なことだ」と個人的な謝意を伝えたという。税制改革は、アップルがトランプ政権に恩を売る機会まで提供し、大きな政治的な勝利につながったと言えそうだ。
米金融大手BTIGのアナリストであるウォルター・パイシック氏は、「アップルが還流させる2,520億ドルの現金にかかるはずだった35%の税率は15.5%にまで引き下げられ、500億ドル(約5兆5,371億円)が節税できたことになる」と指摘。
比較対象の米銀行業界全体での節税分が300億ドル(米ウェルズファーゴ銀行のアナリスト、マイク・メイヨー氏らの推計)にとどまることからしても、アップル一社の節税分の巨大さ、米ITビッグの権勢が実感できる。
税制改革で誰が一番「儲かる」のか?
アップルは、節税分500億ドルのうち300億ドルを雇用や投資に振り向けても、まだ200億ドルのお釣りが来る。さらに、カナダロイヤル銀行(RBC)のアナリストであるアミット・ダリヤナニ氏は、「税引き後、返済すべき負債が少ないアップルには2,070億ドルの現金が残り、(雇用と投資に使う300億ドルを除いた)ほぼすべてを自社株購入や増配などの形で株主に還元するだろう」と予想する。UBS証券のアナリスト、スティーブン・ミルノビッチ氏も、「向こう3年間でアップルは、1,730億ドル分の自社株を買い戻す」と見る。ダリヤナニ氏によれば、1株当たり価格190ドルの買戻しで、2018年の一株利益(EPS)が3ドル上昇するという。
「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏が率いる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイは、1億3,400万株のアップル株(時価230億ドル相当)を保有する同社の第5位の株主だが、一株利益が3ドル上がれば、それだけで4億200万ドル(約445億円)もうかり、さらに増配や株価の上昇分による収益で二重三重においしい。
2004年から2005年にブッシュ(息子)政権が1年間限定の税率5.25%でレパトリ減税を実施した際には、米国に還流した推定3,120億ドル(約34兆5,515億ドル)のうち、「90%以上が自社株買いや増配の形で、株主に流れた」(米市場調査企業GBHインサイツのテクノロジー部門長 ダニエル・アイブス氏)とされる。今回の減税では、米国に回帰した現金の70%が投資家に渡ると、アイブス氏は予測する。
こうして見ると、トランプ税制改革でアップルなどのIT大手が勝ち組になり、それらの企業に投資する株主が最も利益をあげることがわかる。総資産額915億ドル(約10兆1,329億円)と言われる大富豪バフェット氏は、2016年の大統領選でトランプ氏の当選を阻もうと活動したが、蓋を開けてみればトランプ氏の政策でさらに富むという、なんとも言えない結果になっている。
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