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インド経済は今や年率7.5%という世界的に高い成長を遂げており、人口の増加も伴いながら、今後数十年を見据えた変化に邁進している。アジアでの事業者活動を支援するエクシール・エフ・エー・コンサルティングのインド人コンサルタント ガガン・パラシャーがインドIT事情の最前線をリポートする連載の今回は、ナレンドラ・モディ首相のリーダーシップの下で政府が推進する交通手段の改善について取り上げる。
執筆:エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー
(訳:エクシール・エフ・エー・コンサルティング 大塚賢二)
インドの交通システムはまだまだ未整備
インドの成長は都市部に負うところが大きい。2011年の人口調査によれば、人口の31.2%(3億7,700万人)が都市部に居住している。国連の推計では、これが2030年までに40%(5億9,000万人)、2050年までに58%(8億7,500万人)にまで膨れ上がる。そして、30%に過ぎない都市部住民がインドのGDPのおよそ63%を生み出している構図となっている。
このような住民を抱えるインドの都市に見られる問題は多岐にわたっている。交通渋滞、大気汚染、交通機関に起因する温室効果ガス、増え続ける交通事故、二輪車を中心とした自家用車の爆発的な増加といったものだ。
一世代後には倍以上となる都市人口に鑑みると、事態の収拾がつかなくなるのは火を見るより明らかだ。そこで、ライフラインの改善においてハイテクが非常に重要な役割を果たすものと考えられている。
インドの交通産業は年平均15%で成長し続けている。700万台を超える全国の輸送機関が扱う貨物量は1兆3,250億トンキロにのぼり、2025年までには倍増するといわれている。
交通・運輸産業がGDPに占める割合は、先進国では大体6~8%であるのに対してインドではおおむね14%であるが、業界には有力企業が少なく数多くの企業が群雄割拠している状態で、成熟産業とはいえない。交通・運輸産業の問題を適切に理解するためには、営業現場およびキーとなる利害関係について知ることが必要となる。
IT化に向けた進展とそれを阻む障害
メトロ(地下鉄)や都市部およびそれに準ずる地域における新技術を採用したバスの導入により、インドの交通はIT化に向け大きな一歩を踏み出している。
こうした新規ハイテクの採用に大きな障害となっているのが採算性、資本負担である。インドでは、高性能のディーゼルバスの平均費用が約900万インドルピー(約15万米ドル)であるのに比べ、ハイブリッドバスの平均費用は約2,300万インドルピー(約37万5,000米ドル)前後に達する。
業者に電気ハイブリッドバスを購入してもらうため、インド政府は「電気ハイブリッド車の採用・製造促進(FAME)」スキームを打ち出し、約610万インドルピー(約10万米ドル)の助成金を提供することとした。
公共交通システムにとってハイテク化は重要なことであり、情報はあらゆるサービスを計画する際に大切なものとなっている。乗客の要望、行程上の要請、サービス供給時間帯、サービスの頻度などが公共機関あるいは業者の収支に大きな影響を与える主な要因だが、ITツールもまた、プロセスを改善して効率を向上させるのに貢献しているのである。
このようにスマート交通システムは、輸送車両群の管理、発券、保安監視、交通整理、乗客のリアルタイム情報をカバーするものであるべきだ。
しかし、近時の都市バスシステムの政策工程表からは、都市部のバス業者の多くで依然として、IT導入に遅れが見られることがうかがえる。
それどころか、計画策定・スケジューリング・発着所管理にかかるシステムを導入している都市は皆無であり、こうした作業は手管理で行われているケースが多い。
リアルタイム情報は、移動の計画を立てる乗客側にとっても同様に大事なものである。良質なデータがないため、乗客は正確なサービス情報を得ることができないでいる。
一方で、TrafiやMoovitのように、ユーザーに対しオフライン情報を提供する外部アプリ業者が何社か存在する。また、makemytrip.comやredbus.inのように、乗車券を求める乗客が列をなして並ぶことがないよう、オンラインのウェブアプリケーションでバス乗車券の発券状況をリアルタイムで追跡する業者がとても重要な役割を果たすようになってきており、市場でも知られた存在となっている。
【次ページ】大都市で進む交通のハイテク化
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