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4年に一度のアジアスポーツの祭典であるアジア競技大会・アジアパラ競技大会。2018年はインドネシアのジャカルタを中心に開催された。総メダル数で頭1つ抜けている中国を日韓が追う構図は相変わらずだったが、その他のアジア諸国・地域の中で、これまでスポーツに関して取り上げられる機会が少なかったのが「眠れる超大国」インドだ。13億の人口を擁し経済発展が著しいインドからは、ハンディをものともせずにメダルを獲得する選手が登場。そんな国に日本は勝てるのか?
エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二
エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二
ガガン・パラシャー
IILM卒。財務分析、投資コンサルティング、ビジネス調査の経験を経てBig4系列で法人事業コンサルティングに従事。その後X-Ciel Consulting Pvt. Ltd.を立ち上げ、エクシール・エフ・エー・コンサルティングに参画。インド北部ノイダで活躍中の気鋭のコンサルタント。
大塚賢二
東京大学法学部卒。金融機関、Big4系列コンサルティングファーム勤務等を経て現在、株式会社ファルチザンの代表を務める。中小企業の海外進出、金融機関の経営管理・内部統制の支援に注力。エクシール・エフ・エー・コンサルティングではガガン・パラシャーとともに中小、ベンチャー企業のアジア進出を支援。
アジア大会インド代表、過去最多69個のメダルを獲得
インドネシアの都市ジャカルタとパレンバンで開催された2018年アジア競技大会に、インドは572人(うち女子260人)の選手、232人のコーチ陣、21人の医師や理学療法士、24人のサポートスタッフを含む大会史上最多の800人超の代表団を送り込んだ。
大会が終わり、過去最多69個(金15、銀24、銅30)のメダルを持ち帰ったインドのアスリートを出迎えたのは、熱狂的な歓迎と輝かしい栄誉だった。各種スポーツを所轄する諸団体や所管官庁である青年スポーツ省は、当然のように今回の「成果」を強調し、この熱狂からもっと重大な「意味合い」を探ったり見出したりする役回りを自ら買って出た。
その「意味合い」とは、インドがスポーツ大国への階段を上っており、「インド代表選手が挙げた成果に対する賞賛はナレンドラ・モディ政権が受けるに値する」ということだ。
3大会先までも展望、巨大国家のスポーツ戦略とは?
69個のメダルという結果を受け、国内外の多くの人がインドのスポーツが世界レベルに達したことを認識した。これは、一朝一夕の取り組みによる結果ではない。
モディ政権以前のインドでは、代表選手の育成は青年スポーツ省での取り組みに過ぎなかった。
400万人以上の人口がいるインドの「ティア1」都市(デリー、ムンバイ、コルカタ、ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、プネーの8都市)など大都会には施設や指導者が多く存在しているため、住民はお金をかけて大いにスポーツを楽しんでいた。しかし、その指導は必ずしも適切とは言えず、今ではあらゆるスポーツにおいて当然とされているようなノウハウも以前はよく知られていなかった。
インドではクリケットが宗教同然に普及している他、陸上のトラック競技や長年力を入れているレスリング、ホッケーが盛んで試合や競技会も人気がある。しかし、政府の支援やインフラ、技術開発の面で後れを取っていたため、代表選手は期待された成果を挙げることができなかった。
モディ政権となった今では、スポーツ面で進歩を遂げるための諸施策が講じられている。2020年の東京だけでなく、2024年や2028年も含む連続3大会のオリンピック・パラリンピック、およびそれらの間の各種競技会に備えたロードマップを描くタスクフォースが設置された。政府は、一定の成果を挙げるために、個別の予算および青年スポーツ省傘下で活動する委員会の設置を承認した。
モディ首相によると、タスクフォースの目的は、国内外のスポーツ専門家とともに施設の継続的な改善のための戦略を立案し、選手の選考基準を明確化してトレーニング施設を改良していくことだという。
国民すべてが健康でいられるようにスポーツ活動を推奨してきたモディ首相は、今回のアジア大会後にこう述べている。
「アジア大会でメダルを獲得した選手の中には多くの女子選手、さらに15、16歳といったティーンエージャーもいる。また、地方の小さな村の出身で厳しい練習を積んで成果を挙げたメダリストが多いことも、実に喜ばしいことだ。健康なインドは、豊かで繁栄したインドを実現する。インド国民が健康になれば、国全体の栄えある将来をもたらすだろう」
貧困層のアスリートに、政府がユニフォームを補助
また、今回のアジア大会においては、青年スポーツ相がこれまで政府支援の対象外であったインドオリンピック協会(IOA)管轄外の競技の選手および団体に対し、ユニフォーム費用を全額負担することを確約した。これにより、該当する競技の代表選手の不安は取り除かれた。こうした施策は、同相が問題点を的確に理解していることの表れであった。
開会式や閉会式に着用するユニフォーム一式の価格は1万190ルピー(約1万6,000円)、練習着と本番用のユニフォームは競技にもよるが、選手一人あたり1万8,000~2万2,000ルピー(約2万8,000~3万5,000円)であった。これらの費用は、貧困層および低所得層出身の若い代表選手にとっては大きな悩みの種だったのだ。
インドでは、まさにこの貧困が理由で、優れた才能から競技の機会が奪われていた。たとえば、今回のアジア大会女子400メートルで50秒79のインド新記録で銀メダルに輝いた短距離走者ヒマ・ダーシ選手は、アッサム州の小さな村でコメ農家の5人きょうだいの末っ子として生まれた。
ご想像の通り、練習、用具、ウェアにかかる費用を家族が負担するのは困難だった。そんな折、現政権は、インドの人口100万人以上400万人未満の都市である「ティア2」や、ティア2に満たないインドの地方自治体「ティア3」の都市あるいは村落に住むたぐいまれな才能のある選手を発掘し、そうした選手が能力を発揮できるよう、基本的な要望についてはすべて面倒を見ることにしたのである。
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