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世界中の至るところで推進されている開発プロジェクトに伴い、日々膨大なプラスチックごみが生み出されている。13億人の人口を抱え、急速な経済成長を遂げるインドにとってもごみ問題は切実な問題だ。そこで、発想の転換によって、経済成長に伴う産業ごみを社会インフラに活用しようとするインドの取り組みを、人命の観点も交え現地からお伝えする。
エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二
エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二
ガガン・パラシャー
IILM卒。財務分析、投資コンサルティング、ビジネス調査の経験を経てBig4系列で法人事業コンサルティングに従事。その後X-Ciel Consulting Pvt. Ltd.を立ち上げ、エクシール・エフ・エー・コンサルティングに参画。インド北部ノイダで活躍中の気鋭のコンサルタント。
大塚賢二
東京大学法学部卒。金融機関、Big4系列コンサルティングファーム勤務等を経て現在、株式会社ファルチザンの代表を務める。中小企業の海外進出、金融機関の経営管理・内部統制の支援に注力。エクシール・エフ・エー・コンサルティングではガガン・パラシャーとともに中小、ベンチャー企業のアジア進出を支援。
環境に有害なプラスチックを道路にする「逆転の発想」
日本は、プラスチックのリサイクルにおいて最も先進的な取り組みをしている国の1つだが、インドではプラスチックごみを道路建設に利用しており、少なくとも11の州で10万km規模の実績がある。
プラスチックごみで道路を建設しようという取り組みは、モディ政権がすべての道路開発業者に対し、プラスチックごみの利用を義務付けた2015年に始まった。そのきっかけとなったのは、ラジャゴパラン・バスデバン教授がプラスチックごみのリサイクルによって道路を敷設する手法を広めたことだ。
この活動は、インドの国家的ゴミ対策「スワッチ・バーラト・アブヒヤン(クリーン・インディア・ミッション)」の趣旨に沿ったものであり、教授はインド政府から芸術、科学、慈善活動などでインドに貢献した民間人を称える「パドマー・シュリ賞」を授与された。
プラスチックは人間の産業活動が生み出すものだが、消滅させることのできない代物でもある。人間の活動に伴うゴミのほとんどを占めるプラスチックは、結果として、あちこちで厄介な事態をもたらしている。誤って飲み込んだ野生動物が命を落としたり、下水を詰まらせて道路に水をあふれさせたりする。野外に捨てられれば、その土地の植物の発芽を妨げて水はけを悪化させ、雨水が吸収されずに長期間たまったままになる事態を招く。
こうした難儀な状況を考えれば、プラスチックを熱したアスファルトと舗装用の混合物と一緒に混ぜて道路建設に使うというのは申し分のない解決策に思える。しかし、問題はないのか。
まったく問題ない、というのが現段階の答えだ。
道路に環境に良くない物を混ぜて逆効果ではないかと眉をひそめる読者がいるかもしれないが、近年インドに敷設された多くの道路にプラスチックごみが使われる一方、今のところ有害物質の拡散といった懸念は報告されていないのだ。
インドの交通事故死の10分の1は「穴」が原因
通常、道路1kmの舗装に要するアスファルトは10トンだが、1トンの再生プラスチックと9トンのアスファルトで幅3.75mの道路1kmを舗装できる。インドではアスファルト1トンの価格は5~6万ルピー(8~9.6万円)なので、1kmあたりの費用節約も同程度ということなる。
一方で、プラスチックごみ1トンはキャリーバッグ100万個分に相当するので、私たちが個人で使ったプラスチックを拠出する必要がある。多くの人々にとって、プラスチックごみを集めて処分するよう努めることが求められる。
インドでは毎日、1万5,000トンのプラスチックごみが生み出されており、そのうち9,000トンが再利用されている。プラスチックごみは、きれいな包装紙から買い物袋にまであらゆる物に及んでおり、これらを利用すれば道路建設に必要なアスファルトを10%節約することにつながる。
プラスチックごみの再利用の普及とともに、道路整備が進んでいくことで、交通事故死の削減も期待されている。というのも、世界第2の道路網を持つインドであるが、インドの道路につきものの「穴」が、2017年に全国で発生した交通事故死のうち10分の1の原因を占めているからだ。
Times of India紙の2017年7月15日の報道によれば、同年のこうした道路にあいた穴による死者は3597名に上る一方、テロによる死者は803名。つまり、インドでは「テロより穴で人が死ぬ」のだ。
プラスチックごみの再利用が進めば、道路の整備が進み、危険な穴が減り、人命も守られるだろう。
【次ページ】プラスチックごみ再利用100%を達成した都市も
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