0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
日本人が開発した言語の中で、国際的な標準として高い認知を得ているプログラミング言語「Ruby」。その開発者であるまつもとゆきひろ氏の出身地、島根県松江市で2016年から始まった新しい取り組みのひとつが「スモウルビー・プログラミング甲子園(以下、スモウルビー甲子園)」である。高校生以下の若者たちが、GUIで簡単にプログラミング可能なスモウルビーという開発環境を使い、アルゴリズムの優秀さを競うことで新しい人材を発掘しようとする試みだ。2017年3月に松江市で開催された第2回大会の様子を現地で取材した。
Ruby開発者であるまつもと氏に続く才能を発掘へ
まず、スモウルビーについて紹介しておこう。スモウルビーはNPO法人Rubyプログラミング少年団が開発したもので、子供向けのプログラミング教育でよく使われているプログラミング言語「Scratch」のUIをベースに使用している。Scratch同様に、機能ブロックを組み合わせるだけで簡単にプログラミングを体験できる。
大きな違いは、GUIで組み立てたプログラムがバックエンドではRubyのコードに変換されているという点だ。生成されたRubyコードを直接編集することも可能なので、GUIだけで物足りなくなったら一般的なRubyプログラミングに移行できる。
このスモウルビーを使って規定のゲームをクリアするためのAI(人工知能)を作成し、アルゴリズムの優劣を競うのがスモウルビー甲子園だ(ゲームルールの詳細は
こちら)。全国高等専門学校ロボットコンテストをご存知の方であれば、ロボットをAIに置き換えたような競技だと考えてもらえばわかりやすいだろう。予選は参加者がその場に立ち会うことなく、事務局だけで行われる。
第2回スモウルビー甲子園決勝大会開始に当たり、島根県知事 溝口 善兵衛氏はその意義を次のように語った。
「ITの世界は急速な勢いで広がり、日本でもまつもとさんが新しい言語を作ってさまざまな活動に力を入れています。まつもとさんの後に続き、新しい世代を担ってくれる人の登場を期待して始めたのが、スモウルビー甲子園です。ITを武器に戦う仲間同士、これを機会に親睦を深めて交流が生まれることにも期待しています」(溝口氏)
予選を勝ち抜いた12名によって争われる決勝大会だが、競うのはAIの優劣なので、参加者たちがその場でできることはない。ステージ上のスクリーンに映し出される戦いを見ながら、ただただ、自分が作ったAIを信じて勝利を祈るしかない。
まつもとゆきひろ氏や池澤あやか氏らがAIの影響を指摘
トーナメント戦が進みトップ4が決定したところで、まつもと氏らによるトークセッションも行われた。まつもと氏、タレントでRubyエンジニアの池澤あやか氏に加えて、第1回スモウルビー甲子園の優勝者である高田.exe氏も参加し、「ITで何が変わるのか」をテーマに語り合った。大会で使われるのがAIということで、「AIが人間の仕事を奪うのではないか」という話題に多くの時間が割かれた。
「自動車が発明されて馬車の仕事がなくなったように、AIの登場によりなくなる仕事はあるでしょう。しかし新しい仕事も生まれて、仕事の種類自体は増えると考えています。ただ、移行期には需給のミスマッチが起こるでしょうね」(まつもと氏)
まつもと氏がこう持論を語ると、池澤氏は次のように応じた。
「今はディープラーニングも人間主導だけど、いずれ強いAIが生まれる可能性があります。そのときにもエンジニアとして、AIを使う側に立っていることが大事なのかもしれません。中身をきちんと理解して、どれくらい怖いのか、怖くないのか。新しいことを知って戦えるようにならなければ」(池澤氏)
まつもと氏も池澤氏もAIの普及には肯定的な考えを持っているようだ。AIが色々なことを肩代わりしてくれるようになれば、そこに生まれた余裕を使って、人間は人間にしかできないクリエイティブな活動に取り組める。そしてこれには、高田氏も賛同を示した。
「AIが進化すれば人間にできないことがコンピュータにできるようになる可能性があります。でも一方で、コンピュータにできなくて人間にはできるということも必ず残ると思います」(高田氏)
【次ページ】これからの時代は若い世代の発想が大事
関連タグ