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生成AIブームの火付け役となったChatGPTが登場して1年以上が過ぎた。企業ではさまざまなビジネスシーンでの活用検討が進み、主にクリエイティブ支援などに利用され始めている。この間、教育の現場では一体どのような変化が起きているのだろうか。教育における生成AI活用については、これまでもしばしば話題になってきた。教育と生成AIの実情について、これまで数多くの学校の教育改革に携わってきた石川一郎氏と、文部科学省の「生成AIパイロット校」で外部講師も務める教育ICTコンサルタントの田中康平氏に話を聞いた。
教育と生成AIの現状、“世間から10年遅れ”を変えた前哨戦
石川一郎氏(以下、石川氏):これまで教育現場では、PCやスマートフォンなど新しいツールが浸透するまでに、世の中と比べて10年ぐらい遅れていました。ところが
ChatGPTに関しては、現場の反応が少し違っており、世間とほぼ同じタイミングで広がっているように思います。
ただし、授業で使うところまでは進んでおらず、実践的な落とし込みはこれからでしょう。いまは「どう活用すれば良いか?」という点を模索している状況です。
田中康平氏(以下、田中氏):本来、教師の仕事はデジタルと相性が良くありません。生徒が人と対峙(たいじ)し、その関係性や変容を見ていくには、デジタルより人の目が求められるからです。そのため、教育現場に
生成AIが入っても、すぐには置き換わらないと思います。
とはいえ、早い段階から生成AIを業務に使っている先生もいます。先生方も反応や評価が二極化しているようです。どちらかというと管理職の先生は好意的で、現場の先生は活用に慎重な印象があります。
石川氏:実は、コロナ禍で“前哨戦”があったこと、つまり「コロナ禍→オンライン→PC端末の配布」というデジタル化への地ならしが行われたことが、教育現場で生成AIが広がっている隠れた要因だと思います。
さらに、2023年7月に文科省が「
初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公開しています。具体的な指導方法は示されていませんが、長期休みの宿題や自由研究などに活用できるという話です。
田中氏:文科省のガイドラインは、いまは暫定版の位置付けで、今後の見直しを前提に進めている点も従来と異なります。ガイドラインの内容は主に、「先生が生成AIの良さを実感できるような研修を行ってみること」「利用時にはセキュリティ面をしっかり守ること」という2点が挙げられます。
現在は、教育委員会や私立学校で生成AIツールを扱うための研修会などを実施していますが、実践はこれからです。学校DXの好事例を示す文科省の「
リーディングDXスクール」で採択された自治体が、各地区の指定校で実証する形になるので、2024年から活動結果が見えてくるでしょう。
「教師はブラック」生成AIは救世主となるのか
石川氏:教育現場における生成AIの可能性としてよく言われる点は、ブラックな労働環境の改善です。
この20年間、教育現場は仕事を減らさず、追加追加で仕事が増えてきました。
たとえば、総合学習が導入され、次にアクティブラーニングが始まりました。小学生も英語の授業が加わり、入試制度も指導要領も変わり、デジタル化が要請されて、身動きが取れなくなっているのが実情です。
校長先生や教頭先生といった管理職が、新しいことに対する意味をしっかりと考えてこないまま進んでしまった結果でしょう。
【次ページ】教師がブラック労働から抜け出せない、学校特有の構造
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