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  • 2025/04/23 掲載

大阪・関西万博費用13兆円の矛盾、吉村知事「要望書」が示す欺瞞と懸念

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

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大阪・関西万博が4月13日に開幕し、連日多くの来場者が訪れている。一方、開催にあたっての関連費用は13兆円に達するとされ、当初想定の倍近い会場建設費や、広域インフラ整備までが「万博の名の下」に推進されている。だが、そこに経済合理性や巨額の投資に見合うリターンは本当にあるのか。元プレジデント編集長の小倉 健一氏は、合理性なき熱狂の代償は、万博後に一気に表面化するかもしれないと警鐘を鳴らす。
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13日の開幕からおよそ10日間を過ぎた関西万博
(写真:筆者撮影)

万博後の懸念を感じさせる重要な証拠

 2021年7月、大阪府、大阪市、関西広域連合、そして関西の主要経済団体らが連名で国に提出した「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)関連事業に関する要望」という文書が存在する。

 当時の大阪府知事・吉村洋文氏、大阪市長・松井一郎氏(当時・大阪維新の会所属)らが名を連ねたこの文書は、万博推進派が現在振りまいている主張について、万博後の懸念を感じさせる重要な証拠である。

 現在、万博関連費用は13兆円を超えており、その巨額さが批判の的となると、維新関係者や読売新聞など一部メディアは「万博と直接関係のない事業費が含まれている」「四国の道路整備などは万博費用ではない」と言い逃れを始めている。

 しかし、この要望書の存在は、その言い逃れを「粉砕」してしまうことになる。彼らは自らの手で、会場周辺インフラに留まらず、関西一円、果ては中国・四国地方にまで及ぶ膨大な数の道路、港湾、鉄道、河川等の整備事業を「万博関連事業」と明確に位置づけ、国にその実施と財源措置を強く要求していたのだ。

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「2025年大阪・関?万博 万博関連事業箇所図」と書かれた資料では中国・四国地方などの交通整備にも言及されている
(出典:『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)関連事業に関する要望』)

 批判があった「健活10ダンス」も大阪万博関連事業だ(筆者が大阪府庁に直接取材をして確認済み)。

「万博のため」の予算が別物扱いという自己矛盾

 自分たちで「万博のため」と定義し予算を要求しておきながら、都合が悪くなると「あれは別物だ」と言い出す。この責任転嫁、自己矛盾は、万博計画がいかに当初からずさんで、政治的な思惑によって肥大化してきたかを物語っている。

 万博は、純粋な国際イベントではなく、関西、いや日本全体の公共事業予算を獲得するための、壮大な「口実」として利用された疑いが濃厚なのである。少なくとも13兆円の投資がある前提で、投資をした企業は多い。

 この要望書は、万博を「ポストコロナにおける成長・発展の起爆剤」「世界の課題解決を促す処方箋」と持ち上げる。だが、その根拠はどこにあるのか。示されるのは「やってみなはれ」の精神論、「未来社会の実験場」という空虚なスローガン、「新たな価値観やイノベーションの創出」といった具体性のない期待ばかりである。

 マッシアーニ論文(注1)がメガイベント評価の文脈で繰り返し警告してきた、代替効果(万博がなくても使われたであろうお金)や機会費用(万博に使わなければ他に回せた税金)といった、経済合理性を測る上で不可欠な視点は完全に欠落している。

注1:ジャン=バティスト・マッシアーニ著『このイベントは経済にどれだけ利益をもたらすのか?──経済効果評価のためのチェックリストとミラノ万博2015への適用』(2020年、ミラノ・ビコッカ大学)
How Much Will this Event Benefit Our Economy? A Checklist for Economic Impact Assessments with Application to Milan 2015 Expo
本論文は、メガイベントの経済効果評価(Economic Impact Assessment, EIA)に関する方法論的な問題点を抽出し、それを体系的に点検するためのチェックリストを提示し、イタリアで開催されたミラノ万博2015およびトリノ五輪2006に関する4つのEIA研究に適用した実証的な検討である

 バラ色の未来像だけを描き、その実現のためにインフラ整備からソフト事業に至るまで、あらゆる分野での公的支援を要求する「願望リスト」だ。

北陸新幹線「金沢延伸」が暗示する厳しすぎる未来

 そして、この「願望リスト」がもたらす未来を暗示するのが、北陸新幹線金沢延伸の事例である。金沢延伸によって、観光客が増加し、一定の経済波及効果(日本政策投資銀行試算で678億円)があったと主張されている。

 しかし、その内実は決して手放しで喜べるものではない。効果は主に観光需要の増加に偏り、しかも金沢市内ではホテルの客室数が急増した一方で、宿泊者数の伸びはそれに追いつかず、2023年の宿泊稼働率は平均31.7%という低水準に喘いでいた。

 これは、需要予測の甘さと過剰な設備投資が招いた、典型的な供給過剰の状態である。企業は新幹線延伸というポジティブなニュースに踊らされ、期待感から投資を拡大したが、現実は厳しい競争と稼働率の低下に見舞われている。今後、トランプ関税による円高、不景気がきたら、さらに混迷は深まりそうだ。

万博においても、同様の事態が起こらないと誰が断言できようか。推進派が煽る「経済効果2.9兆円」という数字を鵜呑みにし、企業が過剰な期待から投資を拡大している可能性は高く、万博閉幕後の需要減退とともに、深刻な供給過剰と経営悪化を招く危険性はないのか。これが「万博後の懸念」の第一幕である。 【次ページ】大阪万博の「本当の」費用対効果は?
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