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静岡県立島田商業高校 情報ビジネス科。科の名前に「ビジネス」があるのは、単なる飾りではなく、実践的な技術が身につくようなカリキュラムが組まれているからだ。意欲のある生徒には校外活動の機会を与え、また学校行事においても校外の人に門戸を開いている。高校生活3年間の集大成とも言うべき情報システム科の発表会を取材する機会を得た筆者は、公立高校とは思えないその本気ぶりと、生徒の実力を目のあたりにしてきた。
「意欲ある生徒」の実力を伸ばす取り組み
情報ビジネス科という学科は、大学や専門学校では珍しくない。しかし高校、それも公立高校となると話は変わる。各県にひとつあるかないかという数しかなく、しかも偏りが大きい。
情報活用とビジネスについて学べる県立高校を持たない県のほうが多い一方で、静岡県には情報ビジネス科を持つ県立高校が4つもあるという具合だ。
そうした静岡県内においても、島田商業高校の情報ビジネス科の存在は際立っている。C言語やJavaを学びWebアプリやスマートフォンアプリを作る技術を学ぶだけではなく、その技術を使って現実的な課題解決まで経験できるカリキュラムが用意されているからだ。
筆者が島田商業高校 情報ビジネス科を知ったのは、2016年秋に開催された「しずみちinfo クルマと道の未来を描く HACK DAYS 2016」でのことだった。
静岡市が公開している道路情報のオープンデータを使ったハッカソンイベントで、そこに島田商業高校から多くの生徒が参加していた。引率していた鈴木 滋教諭は、「外部の人、それもさまざまな背景を持つ大人とともに活動できるハッカソンは、生徒にとって重要な学びの場になる」と語っていた。
大人のエンジニアでも、こうした活動に積極的に参加し、研鑽を続けるのは容易ではない。そんな場に飛び込むことができる環境が、島田商業高校 情報ビジネス科にはある。
島田商業高校の有志チームが「Urban Data Challenge」に参加した経験もあり、2015年には「
シマアツ」というオープンデータを作成、公開している。
シマアツとは、島田がアツい!の略語だ。ここでいう島田はもちろん、島田商業高校のある静岡県島田市のことで、シマアツは魅力的な飲食店を紹介する団体の名称でもある。同団体が持つ加盟店データをオープンデータ化した際、このデータの名称も「シマアツ」と名付けられた。
「地域とオープンデータ」をテーマに実践的なアプリを開発
2017年2月に行われた情報ビジネス科発表会のテーマは、「地域とオープンデータ」だった。地域に根ざした課題を取り上げ、オープンデータを活用して解決する手法を考え、それを実際のアプリに落とし込む。
そしてできあがったアプリを、大勢の人の前でプレゼンテーションする。アプリ制作は10チームに分かれて行われ、1チームの人数は3人もしくは4人。具体的にどのようなものが発表されたのか、講評を交えて簡単に紹介しよう。
チーム「無芸大食」による「魚肉祭」
島田駅周辺の飲食店を紹介するアプリ。学校帰りや仕事帰りの食事をサポートするだけではなく、市外から訪れた人も使えるようバス、電車の時刻も調べられる。オープンデータのシマアツを利用したほか、電車やバスの時刻データは自分たちで入力したとのこと。チーム名に反してまったく無芸ではなく、足りない店舗写真を自分たちで撮影するなど、アプリの制作にかける意欲が感じられた。
チーム「deer」による「CDP」
CDPとはCouple Date Plan(カップル・デート・プラン)の略称で、カップルや夫婦にオススメの京都の観光地やお土産品を案内してくれるアプリだ。オープンデータとして、京都の指定避難場所の情報を使っており、旅行先という土地勘のない場所で被災した場合には観光アプリが避難誘導アプリになる。
「地域に根ざした課題を解決する」というのが目的だが、「地域」は地元静岡に限定されていないとのこと。とはいえ、地域課題と言われて京都のデートプランを提案するアプリという案は、大人ではなかなか思いつかないのではないだろうか。高校生の発想の柔軟さを感じたアプリだった。お土産品紹介のページでは各商品公式のロゴ、商品画像を使うために京都の各店舗に使用許諾を得たという。
細かいことだがビジネスでアプリを作る際には避けて通れない部分でもあり、きちんとした手順を踏んでアプリ制作を進めた経緯がプレゼンで語られた。
チーム「健康体」による「SSS(Sports Spot Search)」
運動施設と温浴施設を検索するアプリで、対象エリアは静岡県東部。健康な体づくりを通じて地域活性化を促すのが目的だという。運動をする、その後に風呂で汗を流すという一連の流れをひとつのアプリで完結できる。残念ながらオープンデータは使われていないようだが、国の医療費削減のために健康寿命延伸への関心が高まっていることなどを背景に、他地域にも展開すれば利用価値はあるのではないかと訴えていた。
チーム「リミット」による「GOGO呉服町」
呉服町とは、静岡市の市役所近くにある繁華街のこと。多くの人はデパートなど大型小売店を訪れるが、それ以外にも魅力的な店舗があることを知って、訪れてもらいたいという思いから作られたアプリだ。情報を集め、版権について許諾を取り、オープンデータとして公開するとともにアプリ化まで行った。
オープンデータを活用するだけではなく、オープンデータの作成から取り組んだチーム。呉服町という狭い地域に特化しているが、他地域の商店街など、色々な場所で応用が効きそうな取り組みでもある。
チーム「チャーリー」による「ROAD BIKE ROOT」
静岡県内のサイクリングロードと、その近辺の絶景ポイントを案内してくれるアプリ。位置情報やルート案内だけではなく、サイクリングに役立つ天気予報も示されるのは気が利いている。
オープンデータとして使っているのは、天気予報データ。その他のデータは、自分たちで緯度経度を調べて組み入れたとのこと。ターゲットを、週末に趣味でサイクリングを楽しむ20代、30代の独身男性とかなり絞り込んでいたのが印象的だ。
チーム「A hobbys」による「子育てと趣味アプリ」
子育て世代をターゲットに、子連れで遊びに行ったり、趣味で息抜きをしたりできる場所を検索するアプリ。「しずおか子育て優待カード」で割引などの優待を受けられる施設を検索できるほか、100種類の趣味から関連施設を検索できる。
しずおか子育て優待カード協賛店検索システムのデータを県庁から譲り受け、活用したとのこと。趣味検索機能に使ったデータは自分たちで集めたそうだが、100種類の趣味を挙げる作業が大変だったそうだ。高校生として経験したことのない子育てという課題に取り組んだことは、教諭からも高く評価されていた。
チーム「ディザスター」による「00000SHIMADA」
00000と書いてファイブゼロと読む。大手通信キャリアが災害時にWi-Fiのアクセスポイントを無償解放する00000JAPANを有効活用するためのアプリ。島田市内の対応アクセスポイントをキャリアごとに検索できる。0000JAPAN自体、九州の震災をきっかけに始まった新しい取り組みだ。そこに目をつけているところなど、感度の高さが感じられた。
しかし、システムにGoogleマップを使っていたり、データ取得にインターネット接続が必要だったりと、災害時に役立つようにするにはまだ課題も残っているとプレゼンでは語られた。
チーム「よしだレスキュー」による「Sigpo(サイポ)」
東海地方で心配される地震と、それに伴う津波からの避難に着目したアプリ。静岡県内でも特に津波被害が大きいと予測されている吉田町、焼津市、牧之原市、御前崎市にある避難所、避難タワー、病院やクリニックを案内してくれる。
こうした災害誘導アプリは多いが、避難誘導だけではなく病院やクリニックの案内を含めることで普段でも役立つものになっている。普段から使い慣れていればいざというときにも使いやすいので、これはいい着眼点だと感じた。
チーム「steP」による「YPA -Yokohama Pet Application-」
ペットと一緒に出かけられる横浜市内のお店を案内してくれるアプリ。宿泊、食事、レジャーの3分野から検索できる。残念ながらオープンデータでは用意されていなかったため、ペット同伴可の店舗をネットで地道に探してデータ化したとのこと。
京都と同様、こちらもいきなりの横浜市内限定というターゲット設定に驚いたアプリ。このチームのみ男子生徒だけで構成されており、発表も一番元気があった。ステージ中央でパフォーマンスをしてみせるなどインパクトも十分。色々な意味で印象に残ったプレゼンテーションだった。
チーム「T・W」による「hamama」
浜松市の観光案内アプリ。天気予報や災害時の避難情報も案内してもらえる。万一の災害時には自分たちのいる地区を選択して避難所の情報も検索できる。京都観光アプリと同様、観光客に向けて観光情報とセットで避難情報を提供するアイディア。そもそも観光客というのは地の利がない場合がほとんどなので、この2例から今後の観光アプリはこうあるべきかもしれないと思わされた。
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