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  • 2020/12/29 掲載

東大 五神真 総長が警鐘、今が「Society 5.0」と「データ独占社会」の分岐点だ

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経済価値がモノから無形の知識や情報サービスにシフトしていくなど、社会構造の転換期にある現在。私たちはデジタル技術をどのように活用していくかを問われている。デジタル革新の先にあるのは、誰ひとり取り残さない社会か、一部の企業や国家がデータを独占する社会か──東京大学総長の五神 真氏が、Society 5.0の実現を推進する大学の役割、経済好循環へ向けた東京大学の取り組みについて語った。
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東京大学総長 五神 真(ごのかみ まこと)氏

※本記事は2020年10月21日開催「AI/SUM & TRAN/SUM with CEATEC 2020(主催:日本経済新聞社)」の講演を基に再構成したものです。


今が分岐点、知識集約型社会がもたらす未来とは

 これまでの大量生産時代、日本は生産工程の自動化や品質管理という面で主導的な役割を果たしてきた。しかし現代はデジタル革新によって個の多様性に即したサービスが可能になり、そうしたサービスが求められている。

 東京大学総長の五神 真氏は、「いま求められるのは、テーラーメイド医療や3Dプリンターによるオンデマンド生産、スマート農業など、データドリブン型の緻密な制御であり、個別のニーズに応える廉価で高品質なサービスです。その結果が多様性を尊重する、誰ひとり取り残さないインクルーシブな社会につながるのです」と説明する。

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従来のモノ中心の資本集約型から、知識が価値を生み出す知識集約型への転換。そこに「Soeity 5.0」の真の姿がある

 実は、それが日本で議論してきた「Society 5.0」の本来の姿だという。そしてデジタル革新をどのように活用してSociety 5.0を実現していくかが、今問われている。


 同氏は「私たちは、デジタル革新の中心であるAI技術をうまく使って、大量のデータを効率良く解析できるようになりました。それによってインクルーシブな社会が実現できるかもしれません。しかし、一方でデータを持つ者と持たざる者の偏在化、データ独占社会やデジタル専制主義によって、格差が広がってしまうかもしれません」と懸念を示す。

 これは、地方と都市の格差をなくし、誰もが生き生きと社会に参加できるSociety 5.0とは真逆のシナリオだ。

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デジタル革新によってSociety 5.0を実現できるか、それとも、一部の企業や国家今がデータを独占するなどのバッドシナリオになるか。今が分岐点にあると五神氏は指摘する

「自然に任せていくと、バッドシナリオのほうに向かう可能性が高いでしょう。そこで私たちは、意志を持って良い方向にする努力が必要です。そのために政・産・官・民・学、あらゆるセクターが連携し、日本が世界に先駆けて主導してきたSociety 5.0を実現できるようにリードしたいと考えています」(五神氏)

SDGsにも共通、東大が目指す「知の協創の世界拠点」とは

 東京大学では2017年に「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」という目標を掲げ、最高学府として取り組みを始めた。この目標は言い換えると、「人類のみならず、地球のサステナビリティにも貢献し、必要な知を繰り出す世界拠点になる」ということだという。

「これは非常に大きな目標なので、全学の相乗効果をいかに出すかということが必要でした。そこで、総長直下に『未来社会協創推進本部(FSI:Future Society Initiative)』を設置し、意思決定を全学にきちんと通しながら、迅速に活動を進めていくことにしました」(五神氏)

 全学のさまざまなプロジェクトをFSIに登録してもらう仕組みをとり、今では200近くのプロジェクトが登録・活動しているという。また、地球と人類社会の未来を見通す同学の目標は、国連が定めたSDGsと同じ考えを持つ。五神氏によると、すべてのプロジェクトがSDGsを構成する17のゴールのうち、2つ以上のゴールと関係しているという。

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SDGsを構成する17のゴール(目標)
(出典:国連広報センター)

 たとえば、プロジェクトの1つに、身体を理解するための先進的な研究がある。東京オリンピック・パラリンピックを控え、身体科学は極めて重要な研究だが、人々に健康をもたらす点でSDGsの3番のゴール「すべての人に健康と福祉を」にも関係している。

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左の円形の図は、200近くのプロジェクトがSDGsの何番のゴールにそれぞれ関係しているかを示した相関図。すべてのプロジェクトが2つ以上のゴールと関係している

「身体科学の分野では、先端的なスポーツを強化する研究を進めています。トップアスリートとトップ科学者のコラボレーションは身体科学の研究を加速します。というのも、一般人よりも自分の身体で勝負するトップアスリートのほうが、身体科学の研究に対し、はるかに良いフィードバックが返ってくるからです。その研究結果を広く人々に役立てようとしています」(五神氏)

【次ページ】企業連携で「知の価値」の“ゼロ査定”打破を狙う
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