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UberやAirbnbなど、アメリカの新興企業が“破壊者”として市場に参入し、大企業に急成長している。これにより、「シェアリングエコノミー」という考え方が定着した。すなわち、車や宿泊施設など、あらゆるモノや空間などの稼働状況を可視化し、利用体験をシェアするものだ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) 主任研究員/准教授の庄司昌彦氏は「このシェアリングエコノミーを都市問題の解決に活用し、都市の持続可能性を高める政策に応用する取り組みがシェアリングシティ」と説明する。庄司氏に、シェアリングシティが都市問題の解決にどのような可能性をもたらすかについて聞いた。
シェアリングエコノミーの3つのポイント
──「シェアリングシティ」について聞く前に、改めて「シェアリングエコノミー」について認識を整理したいと思います。
庄司氏: UberやAirbnbなどの台頭によって、あらゆるモノの「シェア」という考え方が浸透してきました。モノの稼働状況を可視化し、所有でなく利用から価値が生み出されるシェアリングエコノミーの考え方は、日本国内でも広がりつつあり、矢野経済研究所の調査によれば、国内市場規模は2016年には360億円に達します。
一方で、シェアリングエコノミーの定義についても「幅」が広がってきました。
──具体的にはどういうことでしょうか?
庄司氏: これまでの産業社会的価値とは異なる価値観に「シェアリングエコノミー」を位置づけようという捉え方があります。
「シェア」によって、人のつながりや絆、経済的価値を超えた名誉欲や、お金ではない豊かさといった思想的なものが人を動かす原動力になっているという考え方です。
もちろん、そうした考え方も大切で興味深いですが、私は今、起きていることの多くはまだ、これまでの産業社会的価値、消費社会の延長としてシェアリングエコノミーを位置づけたほうが理解しやすいと考えています。
多くの企業では、「持たない経営」「合理化」「アウトソース」という考え方を実践していて、たとえば自社ビルとしての本社ビルをやめたり、工場を海外に移転したりしています。所有ではなく、リース、レンタルするというのは、合理的な選択として、企業も個人も意識していることだと思うのです。
──経済合理性の先にあるものがシェアリングエコノミーだということですね。
庄司氏: よく「シェアリングエコノミーが進んだ先には、消費経済の減退があるのではないか」といわれるのですが、私はそうは思いません。たとえば、ファションでいえば、これまでは高級服を1着買って、長く着ることに価値観の重きを置かれました。それが、消費者の嗜好が多様化し、よりバリエーションを楽しみたいというニーズが高まってきました。こうしたニーズを満たすファストファッションは、確かに消費欲の変質ではあるかもしれませんが、決して消費欲の減退を意味するものではないと思います。
そう考えると、シェアリングエコノミーというのは、いわゆる「オンデマンドエコノミー」に近いのではないかと考えています。
──「必要なときに、必要なサービスを受けられる」クラウド的な発想ということでしょうか。
庄司氏: 消費者のニーズがより多様化、高度化して、そうした「わがまま」にスピーディに応えることが求められています。シェアリングエコノミーの現状を正しく表現するとしたら、産業の高度化、すなわち「オンデマンドエコノミー」なのです。
オンデマンドエコノミーとしてみたときの「シェアリングエコノミー」にはいくつかのポイントがあります。なかでも「Monitor:稼働状況の可視化」「Open/Share:情報活用のための公開、シェア」「Match:多様なニーズと提供者とのマッチング」が備わっていることがポイントとなってきます。
シェアリングシティとはいったい何か
──では、「シェアリングシティ」とはどういうものか教えてください。
庄司氏: 21世紀は「都市の時代」といわれます。都市部での人口過密や、農村部の衰退といった問題が顕在化するなかで、グーグル、アクセンチュア、IBMといったデジタル企業が、ITやデータを駆使して、社会システムを高度化していく取り組みをしています。
シェアリングエコノミーは、ITの力を使って、色々なリソースの稼働状況を可視化し、効率的に使おうという面を持っています。その意味では、都市問題の一つのソリューションになりうるものです。
──背景にはどのようなことがあるのですか?
庄司氏: テクノロジーが進化し、コンピューターリソースが安価に利用可能になったことが挙げられます。都市が高度化していくためには、そこにあるデータが「タンジブル」(Tangible)である必要があります。タンジブルとは、「触れて感知できる」の意。「見える」だけでなく触れたり感じたりでき、さらには自由に扱えるということで、「オープンデータ」の言い換えのようなものと考えてよいです。
たとえば、部屋の中にも、明るさや温度、気圧など色々なデータがあります。構造化されたデータだけでなく、「この場所でどんなことがあったか」という歴史のような非構造化データまで、実にさまざまなデータがあるはずですが、これらは可視化されていないし、自由に使える状態になっていません。
このように、都市にあるさまざまなデータを自由に使える状態になっていることがタンジブルだということです。そして、データがたくさんあるという点で、都市は高度化しやすいのです。あらゆるモノの稼働状況を把握し、データをシェアしてマッチングして効率的に使おうというシェアリングエコノミーも、この文脈で捉えることができます。
シェアリングシティの事例、世界で相次ぐ「宣言」
──シェアリングシティに実際に取り組む都市はあるのでしょうか?
庄司氏: 代表的なのはソウル市です。市長主導で、2012年に世界初の「シェアリングシティ」を宣言。都市政策として都市の将来像の中に「シェア」という考え方を位置づけ、企業・地域社会・学校への導入を進めています。「包括的であること」「都市の問題を解決すること」の2点がポイントです。
また、オランダのアムステルダムも、2015年に「シェアリングシティ宣言」をしました。ソウルとは、人口過密都市である点が共通しますが、アムステルダムは「市民主導型」という点でソウルと異なります。
そのほかにも、サンフランシスコやバルセロナ、ロンドン、ヘルシンキなどがシェアリングシティの先進都市といわれます。特に、ヘルシンキは、「Mobility as a Service」を掲げ、鉄道、自動車(ライドシェア)、レンタサイクルなどの交通の状況が可視化され、「どこに行きたいか」という利用者のニーズとのマッチングを行っています。「ここまでは交通機関、ここからはライドシェア」というように、ルート検索が高度化しているのです。
──シェアリングシティと、これまでの行政機能との違いをどう考えますか。たとえば、税の仕組みは「富の再分配」の側面があり、それは一種の「シェアリング」ではないかとの見方もできます。
庄司氏: 確かに、シェアリングという考え方自体は新しいものではありません。従来の行政機能とシェアリングシティの相違点は、技術の発達で、オンデマンドエコノミーが実現できる素地が整ってきた点にあります。それを積極的に取り込むことで都市をバージョンアップさせようというのがシェアリングシティだと認識しています。
しかし、今、日本で議論されているのは、「外国からのインバウンド増加にどう対応しようか」とか、「過疎の村でバス路線が撤退したからカーシェア事業をやろう」とか、どちらかというと対症療法的なアプローチが多いように感じます。
【次ページ】日本でも相次ぐ「シェアリングシティ宣言」とその課題
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