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2019年度は消費増税前の駆け込み需要とWindows 7のサポート終了需要で、パソコン業界は好調だった。2020年度はその反動で激減するかと思いきや、コロナ禍によるテレワーク需要と「GIGAスクール構想」に救われそうな情勢になっている。「GIGAスクール構想」とは小・中学校での「パソコン1人1台」を目指す文部科学省のプロジェクトで、年間600万台という特需の発生が見込まれている。反動減に苦しむと予想されていたパソコン業界の光明のように見えるが、それを手放しで歓迎できない業界の事情がある。
昨年度3割増だったパソコン需要
5月21日、MM総研は2019年度(2019年4月~2020年3月)の国内パソコン出荷実績調査の結果を発表した。出荷台数は1530万4000台で前年度比29.3%増、出荷金額は1兆4,181億円で前年度比30.7%増。出荷台数は直近10年間では2013年度の1651.3万台に次ぐ数になり、パソコンの販売は近年まれにみる好調さだった。
MM総研は「2019年10月に実施された消費税引き上げの駆け込み需要もあり7~9月期は前年度比66%と大幅に伸びた」「2020年1月のWindows 7の延長サポート終了を控えWindows10への入れ替えに伴い市場は大きく成長した」と分析している。
そうであれば、2020年度は消費増税前の駆け込み需要もWindows 7サポート終了需要もはげ落ちることによって、パソコン需要は大きく落ち込む運命と予想されていた。
反動減を緩和する2つの要素
MM総研は2019年11月時点で、2020年度のパソコン出荷見通しを27.5%減の1110万台程度と大幅な減少を予想していた。しかし、今回はそれを11.7%減の1351.1万台に上方修正している。台数ベースでは2018年度の1183.5万台よりも多く、反動減のショックはある程度は緩和されるとみている。
上方修正の理由についてMM総研は「新型コロナウイルスの影響を受け経済停滞による需要減が見込まれる一方で、在宅勤務、遠隔授業、遠隔医療など多くの分野でパソコンの需要の増加も期待できる」と挙げる。
「Stay Home」の呼びかけでテレビ会議などリモートワーク(在宅勤務)が普及し、家庭でのパソコンの利用率が高まったのは、誰もが知る通りだ。パソコン本体やウェブカメラなど周辺機器の買い替え需要が掘り起こされている。
また、全国民一律10万円の特別定額給付金、中小企業や個人事業主の持続化給付金、雇用調整助成金、自治体からの休業補償などを申請する際、パソコンを使って電子申請を行いたいという需要も生じている。
だが、期待できるのはそんな「コロナ関連特需」だけではない。「GIGAスクール構想」というかなり大型の特需が、次年度以降分も年度内に前倒しされて、パソコンとその周辺の業界を潤しそうになってきた。
文科省が進める「GIGAスクール構想」とは?
「GIGAスクール構想」のGIGAは、Global and Innovation Gateway for Allの略。GIGAスクール構想とは、義務教育の小・中学校で児童生徒の学習者用パソコン「1人1台」配備を目指すとともに、クラウド活用のできる高速ネットワーク環境も整備するなど、教育分野のICT化を推進する文部科学省の5カ年計画である。
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学習者用パソコンや校内LANの整備だけでなく、ICT、クラウドを活用して子どもの個性に合わせた教育を実現することや、教務や保健などの校内データをクラウド化して一括管理する「統合系校務支援システム」の導入、教員の負担を減らす働き方改革なども含まれる。
初年度の2020年度(令和2年度)の予算は2,318億円。2023年度(令和5年度)をメドに「1人1台」を実現するために、初年度は1,350億円を投じて学校でのパソコン購入に1台最大4.5万円の補助金を支給し、300万台を調達・配備する。また、希望するすべての学校の校内LAN整備を支援するために初年度は整備費用の2分の1を補助する、というのが当初の計画だった。
ところが、2020年度からの新学習指導要領に新しい通信規格「5G」の運用開始が重なり、さらに新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってほとんどの学校が休校になって遠隔授業がにわかにクローズアップされたことで、政府の姿勢が変化した。
【次ページ】方針転換で「超大型特需」に。それでもパソコンメーカーが手放しに喜べない理由
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