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新型コロナウイルスの感染拡大は、国内経済に深刻なダメージを与えている。その影響により、業績予想の下方修正を発表する企業が後を絶たない状況だ。この危機的な状況を乗り越えるために、政府や各種団体もさまざまな政策支援や提言などを行っている。今回は、こうした提言の中から、特にデジタル、データ関連の取り組みを紹介する。
新上場企業が相次いで業績を下方修正、減少した売上高は合計で4兆8000億超
帝国データバンク5月21日に発表した「新型コロナウイルスの影響による上場企業の業績修正動向調査(2020年5月20日時点)」によると、業績を下方修正した上場企業は643社に上り、減少した売上高の合計は4兆8000億円を超えている。
新型コロナウイルス終息の目処も立たず、全国で関連倒産も相次いでおり、東京オリンピック・パラリンピックの延期も含めて、今後も経済への影響拡大が懸念されている。
こうした危機的な状況を受け、政府は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として、「緊急支援フェーズ」と「V字回復フェーズ」において、財政・金融・税制とともに規制改革を進めている。
「緊急支援フェーズ」での取り組み
- Ⅰ.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
- Ⅱ.雇用の維持と事業の継続
- 雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大
- 資金繰り対策
- 持続化給付金(仮称)と特別定額給付金(仮称)の創設
- 子育て世帯への臨時特別給付金
- 納税の猶予制度の特例
「V字回復フェーズ」での取り組み
- Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
- Ⅳ.強靭な経済構造の構築
- サプライチェーン対策
- GIGAスクール構想の加速
- 公共投資の早期執行
経団連による新型コロナウイルス対策に関する緊急提言とデジタル化
日本経済団体連合会(経団連)は、2020年3月30日、「新型コロナウイルス対策に関する緊急提言」を公表した。そこでは、次の3つのフェーズごとに、雇用の維持・事業継続、税制支援、デジタル化、国際貢献、地域経済の活性化などの取り組みについて提言している。
- 当面の危機対策
- 終息後の潜在成長率に回帰するための施策展開
- Society 5.0の実現に向けた未来社会への投資
ここでは、デジタル化を中心とする提言内容を取り上げて解説する。
まず、「1.当面の危機対策」でのデジタル化」では、以下のような取り組みを挙げている。
- ●テレワーク導入に対する設備助成の拡大
- テレワークのためのIT化、電子データ化への支援
- 時間外労働等改善助成金(テレワークコース、職場意識改善コース)の拡充(パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用を含める)
- ●遠隔医療(初診を含むオンライン診療・服薬指導)の推進・規制緩和、遠隔医療にかかる設備投資への支援
- ●労働法令対応時における遠隔化(リモート化)の普及促進や労務管理のデジタル化の促進支援
- ●遠隔教育の推進に向けた教育用端末1人1台の早急な整備
- ●物流ロボットの導入の補助、無人搬送車導入助成等の設備投資助成
- ●エンタメライブ、スポーツイベントなどVR等を活用したライブ配信の推奨、必要な財政支援
- ●駅構内の人流分析・混雑状況の可視化促進に向けた「カメラ画像利活用ガイドブック」の周知・徹底、事例の充実及び政府の相談体制整備
新型コロナウイルスの影響により、企業のテレワークの利用は一気に拡大しており、新たな働き方の模索も始まっている。テレワークの利用は、新型コロナウイルスが終息しても一定の利用は進むと考えられ、企業の働く環境にも大きな変化が生まれている。
学校においては、9月入学始業の議論はあるものの、授業開始時期のめどが立っていない。一部の先進国では採用が進んでいる遠隔教育のためのハード/ソフト両面での環境整備も待たれる。
内閣府は2020年4月8日、「第4回経済財政諮問会議」を開催し、「新型コロナウイルスの感染拡大により、休業が長期化し教育課程の実施に支障が生じる事態に備え、特例的な措置として、柔軟な運用も含め、家庭での学習支援などによる児童生徒などの教育機会確保のための施策を講ずるべきである」とし、遠隔教育について、実施すべき事項を挙げている。
一方、自宅に滞在する時間が増えたことから、ネットショッピングの利用も増え、人手不足による物流崩壊も懸念され、物流ロボットや無人搬送車導入の導入も必要不可欠となっている。
物流関連では、経済産業省が2020年4月20日、「物流MaaS勉強会 とりまとめ」を公表した。本文書では、荷主・運送事業者・車両の物流・商流データ連携と部分的な物流機能の自動化の合わせ技で最適物流を実現し、社会課題の解決、および物流の付加価値向上を目指す「物流MaaSの実現像」を示している。
物流における慢性的な需要過多・人手不足への対応や、物流のICT化・デジタル化を早急に進めていくための物流MaaSの早期実現が期待される。
「3.Society 5.0の実現に向けた未来社会への投資」では、以下のような取り組みを挙げている。
- ●デジタル・ガバメントの推進
- ●医療(ヘルスケア)分野のデジタル化
- ●データ利活用の基盤整備
- ●デジタル技術活用による物流の省人化・最適化の推進
- ●スマートシティモデル事業への大胆な予算措置
注目したいのは「データ利活用の基盤整備」に含まれる以下の提言だ。
- DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)/大阪トラックの具現化に向けた取り組み強化
- 国・地方を通じた公共データのオープン化、標準化の推進(機械判読可能かつ二次利用可能な形のオープンデータ化、社会基盤となる台帳類のデジタル化、地方公共団体の公共データのオープン化の取組みへのさらなる努力や国によるサポート)
- 学習済みモデルの流通・再利用の促進(AI)
- データ連携基盤の構築
- 個人の納得・信頼を前提として企業が個人データを活用できる個人情報保護法制の整備
- デジタル・プラットフォーム事業者の振興
- サイバーセキュリティ対策の強化に向けた人材や技術への重点投資
- データローカライゼーション規制の撤廃
- 企業間取引のデジタル化(特に中小企業における共通EDI化)支援
新型コロナウイルスによりデータ活用の重要性が高まり、感染拡大阻止に向けたデータ活用の取り組みが加速している。
進むデータ活用、政府による政策の後押しも
政府のIT戦略本部は、2020年4月22日、「第77回高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 第8回官民データ活用推進戦略会議」を開催し、IT新戦略策定に向けた方針などについて、議論・検討を行った。
IT新戦略の策定に向けた基本的な考え方(全体像)は、以下の3点となる。
- ●新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するための喫緊の方策として、治療薬やワクチンの開発・普及、雇用・家計・事業を守るための取り組みとともに、接触機会の最低7割、極力8割程度の削減等のため、ITやデータを総動員した取り組みが必要。
- ●戦後最大の危機ともいわれる今般の感染拡大は、社会的距離を確保しながら、仕事、学び、暮らしを継続可能としなければならないなど、社会の在り方に根源的な変革を迫っている。
- ●感染拡大抑制の後には、我が国経済を再起動するため、ピンチをチャンスに変え、デジタル化を社会変革の原動力とするデジタル強靭化を強力に推進する。
また、直近の取り組みとして「新型コロナウイルス感染拡大の阻止」、中長期の取り組みとして「デジタル強靭化による社会構造の変革 ~社会全体の行動変容~」を挙げている。
【次ページ】進むデータ活用、政府による政策の後押しも
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