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  • 2017/02/15 掲載

大阪阿倍野の再開発は、なぜ空前の損失額となったのか

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大阪市がJR天王寺駅南西部で約40年に渡って進めてきた「阿倍野再開発事業」で、事業損失が1,961億円に上ることが明らかになった。これだけの巨大損失は国内の再開発事業でほとんど例がなく、一般会計からの損失補てんが2032年度まで続く。市はバブル経済崩壊後の地価下落やリスクマネジメントの欠如が招いたとみているが、市民団体・大阪市を洗濯する市民の会(洗濯の会)の黒田茂穂代表は「税金をドブに捨てたような施策。こうしたことが2度と起こらないよう肝に銘じてほしい」と訴えている。
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阿倍野再開発の核商業施設として建設されたあべのキューズタウン
(写真:筆者撮影)


北部はハルカス効果、南部は閑散

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 梅田、難波に次ぐ大阪第3の繁華街で、南部の交通の要衝となっている天王寺地区。JR天王寺駅から南西に進むと、中高層の商業ビル、マンションが立ち並ぶ再開発地区が見えてくる。再開発地区北東部の商業ゾーンは、平日の昼間というのに人通りが絶えない。

 再開発地区では、目玉商業施設「あべのキューズタウン」が2011年に開業した。あべの筋を挟んだ区域外には、近鉄が建設した日本一ののっぽビル「あべのハルカス」が2014年にオープンしている。この相乗効果でにぎわいが増しているのだろう。

 阿倍野筋1丁目東商店会の和田一義会長(68)=喫茶店経営=は「買い物客だけでなく、観光客も来るようになり、人の数が増えた。以前とはまったく様子が違う」と顔をほころばせる。

 一帯は戦災を免れ、狭い路地に古い木造住宅やアパート、個人商店が立ち並んでいた。昭和の風情が漂うレトロな商店街と路面電車もあり、下町情緒たっぷりの街並みだったが、商業ビルと高層マンションが並ぶしゃれた地域に生まれ変わった。

 あべの筋から中へ入った住宅街は両側に高層マンションが並ぶ中、歩道付きの広い道路が縦横に走る。電線が地中に埋設された街並みは、都心部に生まれた高級住宅街の趣を持つ。地区内の住宅戸数は再開発前の約900戸が約3100戸、夜間人口は約6,300人が約8,000人に増えた。

 だが、再開発地区の南部では人通りが途端に少なくなる。南東端の一角に再開発初期段階の1987年に開業した「あべのベルタ」は、施設の老朽化とともに、空き店舗が目立ってきた。

 あべのベルタ商店街振興組合の森田博子理事長(76)=すし店経営=は「ビルの老朽化が進み、新規出店も期待できない。ハルカスの開業効果も及んでいない」と苦境を訴える。恩恵は北部にしかなく、区域内の南北格差が新たな課題に浮上しているようだ。

阿倍野再開発区域内の主な施設
施設名敷地面積(㎡)延べ床面積(㎡)構造用途
あべのルシアス7,07368,287地上16階店舗、事務所
あべのキューズタウン37,803183,730地上6階店舗
あべのグラントゥール5,27956,487地上40階住宅、店舗
あべのベルタ10,585101,244地上17階住宅、店舗、福祉施設、体育館など
あべのフォルサ5,00112,574地上7階文化施設、事務所
あべのマルシェ10,88642,952地上14階住宅、店舗
あべのメディックス3,64432,123地上13階店舗、事務所
あべのドルチェ4,91019,283地上14階住宅
あべのシャルム4,83215,844地上14階住宅、店舗、作業所
出典:大阪市ホームページから筆者作成

用地買収費の高騰とその後の地価下落が打撃

 市阿倍野再開発課によると、再開発区域は阿倍野区と西成区にまたがる約28ヘクタール。市街地の再開発計画では神戸市の新長田駅南地区約20ヘクタールを上回り、西日本最大。木造家屋の密集地を市南部の拠点にふさわしい姿に変えるのが目的だ。

 構想が浮上したのは高度経済成長期の1969年。7年後の1976年から事業に着手した。古い住宅や店舗約2,700軒が密集する土地を市が買収して29棟のビルを建築、建物の売却益でビル建設や用地買収にかかる費用を償却する計画だった。

 当初は事業着手から15年で事業を終える方針だったが、地権者が3,100人と多く、用地買収が難航する。しかも、63階建て高層商業施設に核店舗として出店する予定だった大手百貨店のそごうが経営破綻で撤退した。

 代わりに参入の意向を示した米商業開発大手のサイモングループとも話がまとまらず、事業が停滞。結局、東急不動産が参加し、計画を大幅に縮小して6階建て商業施設「あべのキューズタウン」を開業した。

 用地買収や道路、公園、マンションの建設などに市が費やした事業費は、4,810億円に上る。市債発行額は4,224億円に達し、利子総額も1,639億円に膨らんだ。これに対し、土地の売却収入は1,193億円、賃貸収入は1,064億円。巨額の損失が市に残る形となった。

 2,000億円近い損失を出す再開発事業は全国でもほとんどなく、東京都荒川区の「白鬚西地区」や、江東区、江戸川区にまたがる「亀戸・大島・小松川地区」でも、1,500億円程度の損失にとどまっている。

【次ページ】損失補てんは2032年度、返済は2041年度まで続く
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