• 2012/10/12 掲載

【加藤貞顕氏インタビュー】デジタルコンテンツの時代に対応したプラットフォーム「cakes(ケイクス)」の目指すもの(5/5)

定額課金型コンテンツ配信プラットフォーム「cakes」 加藤貞顕氏インタビュー

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cakesが思い描く「普通」の生活

──従来のニュースサイトやWebマガジンだと、基本、媒体側が「編集者」なのに対して、cakesでは、連載を含む1つのコンテンツに書き手・編集者・カメラマンなど、媒体側ではない複数の人間が関わることができる、というのも画期的だと思いました。独立した1つの作品(例えば1冊の本)を作っているようであり、にもかかわらずcakesという媒体のコンテンツでもある。ここに「cakesはプラットフォームである」ということがよく表れていますよね。フリーの人間にとっては非常に夢がある話で、今後企画の持込先として、クリエイターたちにとって魅力的な場所になっていく予感がします。

 加藤氏■こちらでコンテンツの権利を保持するつもりはないので、本当にどんどん使っていただきたいです。もちろん、こちらの編集がかなり入っているコンテンツもあることはありますが、基本的にはクリエイターのみなさんに勝手にやってもらえるような場にしていきたいです。

──えーと、じゃあちょっとご相談したい企画があるんですけど……。

 加藤氏■僕にメールください(笑)。

──やった! (笑)雑誌に元気がなくなり、フリーライターで食うのは難しいなどと言われて久しいわけですが、cakesは、雑誌が担ってきた「書き手を育てる」といった機能も果たしていくことになるのではないでしょうか。そのへんも含め、紙・電子問わず、今後の活字文化に対してお考えがあれば聞かせてください。

 加藤氏■これはフリーランスの方に限った問題ではないんですよね。名の知れた書き手であっても、以前に比べて書く場所はかなり少なくなっている。で、それって編集者にも言えることですよね。だからcakesは、書き手だけではなく、ぜひ良いコンテンツを生めるフリー編集者にも活用していただきたい。

──お話を聞いていて、やってみたい企画がいくつも浮かんできました(笑)。とにかく想像力を刺激される媒体であることが身に染みてわかりました。では最後に、すごく根本的な質問をさせてください。トップページの「cakesについて」の文章で、「普通のこと」とお書きになられていたのが印象に残っています。考えてみると、すべてがここに収斂していくような気がします。今はまだ、コンビニでペットボトルのお茶を買うようにデジタルコンテンツは買われていない。パン屋がパンを売るようにデジタルコンテンツは売られていない。たとえいいものを作っていても、デジタルコンテンツというカタチでは十分な対価を得られない。cakesが「普通のこと」になる未来の生活を、加藤さんはどのようにイメージされていますか?

 加藤氏■4~5年後のイメージで言いますと、まあタブレット端末は今以上にもう相当数の人が持っているようになると思うんです。その時に、あるサイトに行って、DRMを解除するボタンを押して、買って、で、買ったものがこの端末では見られるけど買い換えると見られなくなってしまう……みたいなストレスがまずなくなっている。

 会社に行くのに電車に乗っておもむろに端末開けば、面白いコンテンツが5つくらい上がっている。そのなかには無名の、でも面白い書き手のコラムがあれば、有名漫画家の新作漫画もある。オーセンティックなものもあればそうじゃないものもある。そうしたことがごく当たり前の生活……本当にそれだけなんです。読者は、見たいものをぱっとみたいだけだと思うんです。それこそ、そうした欲求に気付かないくらい、デジタルコンテンツを楽しむことが自然で普通なことになっていたらいいですね。

 インターネットには、まだ世界のかなりの部分がのっかっていませんよね。旧来のビジネスのなかで、のっかっていないものが実はまだまだたくさんある。そして、1番相性の良いコンテンツが実はまだのっかっていないという不思議な状況にある。相性が良すぎるゆえ、なのかもしれませんが。しかし、タブレット端末がもっと出てきたり、そのための仕組みが整備されれば、後は……という段階に来ていると思います。

──楽天のkoboやAmazonのkindleもあれば、有料メルマガやニコニコ動画およびブロマガの流れもあって、その流れのなかの1つとしてcakesもあるわけですが、れからこうしたものに影響を受けた媒体やサービスがどんどん生まれてくるでしょうし、そういう意味では混沌としていながらも非常に面白く興味深い時期に来ているのかもしれませね。cakesが、これからのデジタルコンテンツのシーンをどう牽引していくか、読者としても作り手側としても、非常に楽しみです。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


(執筆・構成:辻本力

●加藤貞顕(かとう・さだあき)
1973年、新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー(現:アスキー・メディアワークス)にて、おもにコンピュータ雑誌の編集を担当。ダイヤモンド社に移籍し、単行本や電子書籍の編集に携わる。おもな担当書籍は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『スタバではグランデを買え!』『英語耳』など。現時点で最も日本で電子書籍を売っているダイヤモンド社のiPhone/Android用電子書籍リーダーアプリDReader(現:BookPorter)の開発にも携わる。2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立、代表取締役CEOに就任。2012年、9月より定額課金型コンテンツ配信プラットフォーム「cakes(ケイクス)」をスタートさせる。
サイト:cakes(ケイクス)
ブログ:sadaakikato.com

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