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評価額が10億ドル(約1,060億円)以上で、上場をしていない企業を指す「ユニコーン企業」。勢いのあるスタートアップの代名詞としても使われているが、成長のために企業倫理や社会との共存を犠牲にする弊害も噴出。行き過ぎへの反省から、SDGs(持続可能な開発目標)に真剣に取り組む企業や、そうした企業にマネーを出すESG投資が増えている。その流れにあって異彩を放つのが「ゼブラ企業」だ。利潤を最優先するのではなく、持続可能な範囲での成長を追求し、より良い社会の形成に寄与することを目指す会社の総称である。今、米国で静かに支持を得つつあるゼブラ企業の実態に迫る。
ゼブラ企業が生まれた背景:ディスラプションへのアンチテーゼ
ゼブラ企業は、指数関数的な成長、派手な新規上場(IPO)、時価総額の爆発的増加を究極的な目標とするユニコーン企業の「シリコンバレー・モデル」に対するアンチテーゼとして提唱されたものだ。そのため、ゼブラ企業を理解するためには、ユニコーン企業の目的や手法、それらが社会全体に与えてきた悪影響が米国でどのように見られているかを知る必要がある。
米国の有力ユニコーンは、業務内容に違いはあれど、基本的な哲学や経営手法に顕著な共通点が見られる。すなわち、「破壊」と訳されるディスラプションを仕掛けて、ライバル企業を含む既存の社会基盤を焦土化すること、それによって競争相手をつぶして市場独占を目指す傾向が強いこと、熾烈な競争に打ち勝った暁には、勝者総取り的に先行者利益を独占(あるいは複占・寡占)することである。
また、評価額の10億ドル超えが到達点とされるため、質より量を重んじ、ステークホルダー全体の利益よりも出資者であるベンチャーキャピタル(VC)など投資家に報いることを何よりも重視する。これは、投資家がハイリスク・ハイリターンを期待しており、短期的に最大限の結果を出さなければならないからだ。
VCを満足させられない「敗者」は継続的な出資を得られずに早期退場しなければならない過酷な運命であるため、いきおい目先の時価総額を高めることに一点集中することとなる。これがさらに短視的な、ゼロサムゲームのような振る舞いを助長することになる。
言い換えると、ユニコーンは持続性を目標にしているのではない。あえて言うならば、「短期間の急成長、破壊と独占による利潤最大化」が目的である。だから、顧客・取引先や従業員、地元社会と長期間にわたる付き合いを前提とした関係を育むことが少ない。投資家の利益が社会全体の利益や民主主義の繁栄に優先してしまうのである。それが、「壊れている」との悪評を呼ぶだけでなく、企業文化・経営手法のあり方の画一化や、無責任で破壊的な経営につながることがままある。
好例が、コミュニティ型ワークスペースをコンセプトに掲げるコワーキングスペースのウィーワークだ。高成長で市場の注目を浴び、その企業価値はピーク時に470億ドル(約4兆9000億円)にも達した。だが、ウィーワークのビジネスモデルは「シリコンバレーの錬金術」と称されたように過度に評価された不動産業に過ぎず、粉飾されたブランド力でもたらされたものであり、IPO前に収益性のメッキがはがれて経営が行き詰った。時価総額は最高値から90%以上も目減りしており、「砂上の楼閣」ユニコーンの筆頭格と目されている。
また、すでに上場している“元ユニコーン”に目を向けると、フェイスブックはユーザーの信用を損ねる個人情報の取り扱いで信頼を失い、グーグルは民主主義の言論基盤を支えるメディア記事への「ただ乗り」で反感を買い、ウーバーは賃金面や労働条件面でドライバーの搾取を行っているとして批判が絶えない。これらの例は氷山の一角だ。
既存の社会のルールを無視し、社会的な責任よりも自社の成長を優先するユニコーンに対しては、過去10年間で多くの疑問が突き付けられるようになった。その結果として米国ではテック大手の規制分割論が高まり、ゼブラ企業の可能性に注目が集まり始めているのだ。
ゼブラ企業は、ユニコーンが軽視した正義と責任を強調する
よく言われることだが、一角獣のユニコーンは馬のような姿をした想像上の動物に過ぎず、「本物」ではない。それに対するアンチテーゼとしてのシマウマを理想とするゼブラ企業は、「実在」を売り物にする。そして、ゼブラが「白黒」両色であるように、利益を出しながらも社会貢献をすることが究極の目標である。
また、ゼブラという動物は群れの中で協力し、互いを守るが、ゼブラ企業も一匹オオカミ的なユニコーンのようにつぶしあうのではなく、共存共栄を目指す。さらに大切な点は、ゼブラ企業が民主主義を救う目的を掲げていることだ。ユニコーンが軽視した正義と責任を強調することで、ユーザーや顧客を助け、いやすのである。
ゼブラ企業は2017年に、女性起業家のマラ・ゼペダ氏、ジェニファー・ブランデル氏、アストリッド・ショルツ氏、そしてアニヤ・ウィリアムズ氏の4人が提唱した「ゼブラ・ユナイト」運動から生まれたものであり、世界中で40の支部と5000人以上のメンバーを擁するまでに成長した。
ゼペダ氏は、「ゼブラ企業は社会の問題解決に寄与する、地に足のついたビジネス展開を目的とするため、市場をディスラプトすることがない」と説明している。
ゼブラ企業の代表例、PatreonとToya
ゼブラ企業の代表例が、YouTubeコンテンツ製作者、ミュージシャン、ウェブコミッククリエーター向けのクラウドファンディング・プラットフォームである
Patreonだ。同社は、「お金が何回も循環する経済」という理想を実践している。具体的には、600万人以上のPatreonパトロンが、20万人を超えるクリエーターに毎月定額の投げ銭を行い、Patreonが決済を仲介することで、クリエーターがそのお金を使って自由な創作活動を維持し、パトロンがそれを定期的に楽しめる経済の仕組みを作り上げたのである。
一方、女性主導のゲームスタジオである
Toya(Toya Play)もゼブラ的な成功を収めている。少女たちを勇気づけ成人した際に能力をフルに発揮できるよう、少女や女性をヒーローとして設定したゲームを提供している。既存の女性らしさや美の基準にとらわれず、キャラクターの役割設定も常識に挑戦するものとなっている。
このようにしてToyaは、「コンテンツを通してジェンダーの平等を実現する社会貢献を行っている」と、共同創業者であるアナット・シュパーリング氏とイファット・アンゼレビック氏は語った。
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