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SNSの「観てきたよ!」投稿ができない
B氏はさらに、コロナ禍において映画宣伝の常套手段が使えなくなった、と指摘した。
「ここ2、3年、若い人向けの映画のパブリシティは、ネットの口コミが主力になっています。TV番組で紹介してもらったり、権威のある偉い先生に新聞や雑誌で評論を書いてもらったりするより、観に行った人にSNSで話題にしてもらうきっかけを用意してバズらせるほうが、拡散効果が高いんです。ところがコロナ禍で、無邪気にSNSで『観てきたよ!』と言いにくくなりました。いくら映画館は比較的リスクが低いと言われていても、さまざまな事情で外出を控えている人から『こんな時期に映画館なんて……』と言われてしまうからです。これを封じられたのは、結構痛いですね」(配給会社・B氏)
たしかに筆者の周囲でも、映画に限らず飲食店や観光地などの「盛り場」に行ったことを写真つきで投稿する友人は、激減した。実際は行っているのかもしれないが、投稿頻度は確実に減っている。とはいえ、だからこそ新しい宣伝方法を“劇場側から”仕掛けるべきだと、A氏は言う。
「劇場からすると、長らく映画の宣伝って“配給宣伝に倣(なら)え”だったですよ。公開初日まではものすごく力を入れるけど、公開後はそれほどケアしない。でも、本当は公開後も継続して宣伝を行うのが大事なんです。映画って、公開直後が一番客入りが良くて、徐々に落ちていくんですが、この下げ幅を最小限にするのが、劇場のやるべきこと」(興行会社・A氏)
A氏が教えてくれたあるシネコンは、某アニメ作品の公開にあたり、劇場発のSNSや館内での展開に力を入れることによって、他のどの劇場よりもロングランヒットを記録して “聖地化”したそうだ。「『△△(作品名)』を観るなら、あの劇場」という認知が広まったことで、ファンのリピート鑑賞につながった。“劇場指名”の客を確保したのだ。
コロナ禍でも製作本数は減らない!?
ここで、劇場や配給よりもっと川上にまで遡り、作品の製作段階に目を向けるべく、映画製作プロデューサー・C氏に聞いた。ふだん彼が手掛けているのは、製作費1億円未満の小規模作品が中心とのことだ。
「現場が密にならないように撮影スケジュールをゆったり組むと、撮影期間がどうしても長くなる。スタッフもキャストも機材も稼働日数分でギャラが発生しますから、製作費が1、2割ほど上がりました。これは結構厳しいです。あとは、子供と老人を使った撮影がやりにくくなりました。学園ものの給食シーンなんて、絶対に撮れないです」(プロデューサー・C氏)
米国ハリウッドでは、新型コロナ感染拡大によって、予定されていた映画やドラマシリーズの撮影が中断したり、滞っていたりしている。となれば、日本でも映画の製作本数が減り、今年以降、作品不足になるのだろうか。
「作品数自体はそれほど減らないんじゃないでしょうか。昨年、コロナが騒がれ始めた時期には、さすがに撮影がストップしましたが、今では企画も撮影も動いています。現場に仕事を与えなければ、彼らが食いっぱぐれてしまうので」(プロデューサー・C氏)
製作本数が減りそうもないというのは意外だった。ただ、大作が続々と公開延期し、劇場の集客自体も減っている状況下、新作を作って公開したところで、動員は見込めないのではないか?
「うちは製作だけでなく配給もやってるんですが、配給側からすると、劇場だけが作品の出し口ではないんですよ。配信という方法もある」(プロデューサー・C氏)
劇場公開がダメなら、配信。その方法は、どこまで映画ビジネスを補填できるのか。コロナ禍で急速に会員数を増やしたネットフリックス(Netflix)はじめ配信各社は、「映画館」の代わりを担えるのか。次回はそのことを深堀りしてみたい。
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