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2020年4月の緊急事態宣言下、店頭からマスクが消えたことは記憶に新しい。マスクが不足したその背景には需要の爆発に加えて、国内メーカーの製造拠点が海外へ移転していった、国内産業の空洞化問題がある。新型コロナを契機に起こり得る「サプライチェーンの国内回帰」の可能性を探る。
マスク不足でサプライチェーンの見直しが進むか
直近のマスク不足の原因は、大きく3つであろう。
- 急激な需要拡大
- 転売屋などによる買い占め
- マスクの輸入が滞り、国内のマスク販売量が減ったため
日本衛生材料工業連合会によれば、2019年度のマスク生産量は64億5500万枚。うち約77%(49億7,200万枚が輸入、国内生産は約23%(14億8,300万)枚である。新型コロナウイルス感染拡大によって、マスクや医療用物資の輸出を制限する取り組みが各国で広がった。そのためマスク供給の多くを輸入に頼る日本国内では、マスク不足に拍車がかかったのだ。
これを受けて、経済産業省は、2020年4月8日、「マスク等生産設備導入支援事業費補助金(マスク生産設備導入)」を3回に分けて公募することを発表、国内製造拠点でのマスク増産を図った。第1回目の公募ではエリエールプロダクト、カワバタ製紐、シャープの三社が採択された。
また安倍首相は2020年4月29日の参院予算委員会において、「国民の健康に関わる重要な物資の生産、サプライチェーンは国内で確保することが重要だ」と発言している。
このように新型コロナウイルスはワールドワイドへ広がりつつあったサプライチェーンの見直しと、その国内回帰を促す可能性がある。新型コロナウイルスによる経済危機の真っただ中にある今だからこそ、サプライチェーンを国内回帰させる意義を考えてみよう。
産業空洞化問題、切り捨てられた中小企業
サプライチェーンの国内回帰を考える前に、現状問題となっている、産業の空洞化について確認しておこう。
国内製造業の多くはこれまで、より安い人件費や海外における販売網の都合などを鑑みサプライチェーンを海外へと展開してきた。しかし製造拠点の海外移転は国内産業の空洞化につながる可能性がある。
国内製造業を営む企業41.5万社のうち、99.5%は中小企業で、そのうち86.4%にあたる35.9万社は従業員20名以下の小規模企業である。機械製造(繊維。雑貨製造などを除く)においては、小規模企業の14%が、サプライチェーンに属している。
こういった数字を挙げるまでもなく日本の産業は国内の中小企業が支えてきた。そして当然、大企業の下請けとして、国内におけるサプライチェーンの一端も中小企業が担ってきた。
しかし製造拠点の海外移転に伴い、中小企業の一部は切り捨てられたのだ。
2020年度版中小企業白書では、自動車産業を例にこの問題を論じている。トヨタ、日産などの自動車メーカー7社を頂点とした自動車産業における構成企業は、2012年では28,329社であった。しかし2018年には25,999社となり、2,330社(8.2%)減っている。これを中小企業に限って論じれば、2012年:26,427社から、2018年:24,342社に減っており、減少数は2,085社(8.2%)となる。
同白書ではこの原因を「一概には論じられない」と前置きした上で、経営者の高齢化などによる廃業、取引先企業の絞り込みや海外調達への切り替えが原因であると論じている。
そしてここに来て、新型コロナウイルスによるマスクや医療品の不足問題が、国内にサプライチェーンを構えることの重要性を再認識させたのだ。
【次ページ】サプライチェーンの国内回帰は、どうすれば現実的か
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