- 会員限定
- 2020/05/21 掲載
苦境の町工場、しかし「人工呼吸器」製造には踏み切れない理由
深刻度を深める、中小製造業の現状
新型コロナウイルスの影響は、容赦なく中小の製造業を襲いかかっている。特に、従業員数名ほどのいわゆる町工場への影響は、日を追うごとに深刻度を深めている。製造業の街として知られ、多くの町工場が立ち並ぶ東京都大田区にある、自動車のポンプをメインに製造する工場の経営者は、新型コロナウイルスによる影響をこう話す。
「現時点(4月下旬)での売上は3割減です。ただ、これから状況次第ではどうなるかわかりません。今言えることは、5月、6月はほとんど仕事がないということだけです。最悪の場合、工場を閉めなければならないかもしれませんね」
この町工場の場合、3月までは自動車メーカーが稼働していたため、3月に発注があり4月に納品する分の受注減は、3割程度に抑えられていた。しかし、現在はメーカーからの発注は一切途絶えてしまっているという。メーカーが自動車を組み立てていないため、部品の発注そのものがなくなってしまったのだ。この経営者は「いずれは自動車メーカーも製造を再開するでしょうが、それまでうちが持ちこたえられるかどうか」とため息をつく。
影響を受けない製造業はない
製造する製品によっても深刻度は異なるという。東京都足立区に本社がある金属や樹脂などの加工メーカー・畑精密工業の中村貴裕社長はこう話す。「自動車部品や建材などがメインですが、釣具のパーツや音楽パーツも作っています。弊社の場合、最も深刻なのがこの分野です。3カ月先どころか、それより先のすべての注文がなくなってしまいました。不要不急の製品を製造している会社への影響が、より深刻なのではないでしょうか」
ただ、中には、受注が増えた町工場もある。金属加工の街として知られる新潟県燕市の、ある金属加工工場は受注が増えているという。
「3月に入って注文が増え始めて、4月も仕事自体は増えています。メーカーがいつ作れなくなるかわからないから作れるうちに作っておこうと将来分まで発注しているのでしょう。しかし、長期的に見れば仕事は先細りになっていくことは目に見えています。このコロナ騒動がいつ収まるかわかりませんし、将来の分もいま作っている状況です。ほかの分野に活路を見いだせないかと検討しているところです」と、経営者は話す。
程度の違いこそあれ、新型コロナウイルスの影響を受けていない製造業はない。経営者の顔は一様に暗く、思いつめた表情だ。この状況を打開できる、あるいは悪影響を最小限にとどめる手だてはないのだろうか。
【次ページ】町工場が「人工呼吸器」製造になかなか踏み切れない理由
関連コンテンツ
PR
PR
PR