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東京港最大のコンテナ埠頭、大井ふ頭に異変が生じ始めている。以前はコンテナの引き取り待ちをするトレーラーの車列が連日渋滞を引き起こしており、問題となっていた。ひどいときには、5kmを超えた車列に5時間も待たされることもあったという。ところが、新型コロナウイルス発生した今、その渋滞が短くなっている。「明らかにクルマは少なくなりましたね。おかげで、うちの売上も下がっていますよ」と大井ふ頭にあるコンビニでは恨み節も聞こえた。輸入が減っているから、輸入コンテナを運ぶトレーラーの需要も減っているのだ。新型コロナウイルスが今まさに物流業界におよぼしている影響を見ていこう。
「マスクをしていないドライバーは来ないでくれ!!」
先日、ある運送会社から「どうにかマスクが手に入らないだろうか…?」と相談を受けた。聞くと、ある配送先から「マスクをしていないドライバーは、配送に来ないでくれ!!」とお叱りを受けたそうだ。
慌てた運送会社はマスクを探し求めた。が、マスクの入手がとても困難になっているのは、皆様ご存じの通り。そこであちこちに声をかけ、なんとかマスクを探しているのだと言う。
ある準大手倉庫会社は、社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した場合の対策を立ててた。
- ・事務職の者に感染者が発生した場合、同じフロアで働いていた者は、経過観察のため自宅待機。
- ・倉庫倉庫作業員についても、同様。同じエリアで働いていた者は、自宅待機。
「これ、実効性があるんですかね……」
担当者が悩む「実効性」とは、ふたつの意味がある。
- 1. この対策で、本当に社内における感染者の拡大防止になるのか?
- 2. この対策を、本当に実施できるのか?
同社ではアルバイト、パートも含めると、1つの倉庫内で1000人近い人が働いている。たしかにメインで働くエリアは決まっているが、休憩室や喫煙室、食堂などの複数の共有スペースが存在する。つまり、濃厚接触の可能性は同じフロア(エリア)で働いていた人以外にもあるのだ。
2については、ある意味もっと深刻だ。倉庫会社はお客様の製品をお預かりして、流通加工や梱包などの業務委託を行っている。たとえばメーカーの物流センターであれば、「社員に新型コロナウイルスの感染者が発生したため、十分な製品供給ができなりました」と言えなくもない。
しかし倉庫会社の場合、業務委託を請け負っている手前、「新型コロナウイルスが発生したので、仕事を一旦停止します」とお客さまに理解を求めるのは難しいだろう。そんなことを言えば、何かしらの賠償請求を求められたり、場合によっては取引を打ち切られる可能性だってある。
では、ほかの仕事に従事していた者に仕事を割り振るか……。しかし、もし倉庫内でクラスターが発生したら、出勤できる者などいくらもいなくなってしまう。
「いざとなったら、自宅待機を解除して、社員やアルバイト、パートを呼び戻すしかないのでは?」
担当者の言う実効性に対する懸念は、これだ。
もし、ドライバーに感染者が発生したら?
数年前のことだが、知り合いの運送会社で、インフルエンザ感染者が発生した。日々、40台程度のトラックを動かしている会社で、4~5名のドライバーがインフルエンザに罹患したのだ。
たかが4~5名と侮るなかれ。他営業所に協力を仰ぎ、協力会社にすがり、最後はお客様に配送指定日を引き伸ばしてもらい、なんとか乗り切ったが、たいへんなことになっていた。
事務や営業などのホワイトワーカーと、ドライバーなどのブルーワーカーが違うのはここである。運送の仕事には、必ずトラックを運転するドライバーが必要になる。ドライバーが欠勤すれば、それはほぼ仕事に穴を空けることに等しい。
思い出してほしい。昨年12月、はとバスの運転手が死亡事故を起こした。ドライバーは体調不良を感じていたが出勤した。後から判明したことだが、インフルエンザに罹っていたのだ。そして意識が朦朧としたドライバーは、死亡事故を起こしてしまう。
なぜ仕事を休めなかったのか?おそらく、このニュースを見た人の多くは、そう思ったことだろう。しかし、休めないのだ。物流業界は深刻なドライバー不足にあえいでいる。バスもトラックも、タクシーも同じだ。病欠者が出ても代わりのドライバーを抱えている運送会社など、ほとんどない。
私が確認した限りでも何社かの運送会社では、出勤時の点呼時に非接触型の体温計でドライバーの体温を測り、体調管理を強化している。各ドライバーに体温計を支給し一日に何度も検温をさせ、報告を義務付けた会社もある。
もし、うちの会社に新型コロナウイルスの感染者が発生したら……。
中小運送会社にとっては、会社の経営を脅かしかねない恐怖なのだ。
【次ページ】新型コロナ以前から運送業界は陰りを見せていた
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