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- 2020/03/12 掲載
原油価格急落、コロナショックでこれから金融業に訪れる「危機」
「逆オイルショック」発生、危機シナリオが複雑化した
新型コロナウイルスが報じられた当初は中国の景気減速やサプライチェーンへの悪影響、日本国内においてはインバウンドの減少など比較的影響範囲が限られると見られていた。だが、世界各国への波及による世界経済の減速懸念、そして、このタイミングでの石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」で、サウジアラビアが提案した減産案をロシアが拒否したことで、サウジアラビアが増産姿勢を打ち出し、原油市況が一気に崩れた。
もともと、協調減産があったとしても、世界経済の減速からなお供給過剰と見られていただけに、サウジアラビアの増産は深刻なネガティブサプライズとなった。9日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は前週末比25%安となり、下落率は湾岸戦争による悲観ムードが高まった1991年1月に次ぐ、過去2番目である。
9日のニューヨーク株式市場も急落し、ダウ工業株30種平均は前週末終値と比べて2013.76ドル下落した。実体経済だけではなく、金融面も含めた複合不況の様相を見せ始めている。
原油価格急落という逆オイルショックで、コロナショックの波及経路は複雑になり、危機のシナリオが増えた。その全てを洗い出すことは難しいものの、比較的蓋然性が高いと思われるシナリオを確認しよう。
オイルマネー縮小で金融・不動産市況に打撃も
原油価格暴落により、産油国の国際収支・財政収支は悪化する。平時であれば、原油価格の下落は、投入コストの削減や物価上昇が抑制されることによる需要増加などを通じて、世界経済全体に取ってはプラスになる面もある。だが、新型コロナの影響で経済活動そのものが低下している状況では、原油価格下落の恩恵は望めない。人や物の移動が制限されている状況では、原油価格が下落しても、需要増加につながらないからだ。そもそも、足元の原油価格では採掘などにかかる生産コストと比較して採算割れとなる国もある。
サウジアラビアの戦略はロシアの譲歩を引き出すことが目的だと考えられる。一般財団法人日本エネルギー経済研究所『国際原油市場を取り巻く環境と価格形成に影響を与える諸要因に関する調査報告書』によると、サウジアラビアは世界で最も低い生産コストを誇るが、一方で、拡張的・硬直的な財政支出が災いして、財政収支は赤字傾向にある。
外貨準備や、政府が出資する投資ファンドであるソブリン・ウェルス・ファンド(Sovereign Wealth Fund: SWF)を活用することで、この原油急落局面でもショックを緩和することができる。交渉相手となるロシアも生産コストは低いが、外貨準備やSWFが少なく、我慢比べではサウジアラビアが有利と見ることができる。
産油国であっても、アゼルバイジャン、アンゴラ、イラク、イラン、オマーン、ナイジェリア、ベネズエラなどはロシアと同じように外貨準備やSWFが潤沢とは言えない。国内政治や経済環境に問題を抱えている国も多く、ソブリンリスク(国に対する信用リスク)の上昇が国際金融市場に波及する可能性もある。オイルマネーが細れば、SWFを期待した金融・不動産市況への悪影響もあるだろう。
【次ページ】楽観的だったハイイールド債市場が変調
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