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  • 2025/04/18 掲載

サステナビリティ施策が激変? 日米金融機関「対策団体脱退」の衝撃

大野博堂の金融最前線(86)

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ここ数年、世界のサステナビリティ施策に対する懐疑的な意見が広がっている。日本ではサステナビリティを限定的に捉えてきた可能性がある一方、欧米では「wash」という言葉を使い、揶揄(やゆ)する意見も増えてきている。実際に、日米の大手金融機関も続々と気候変動対策グループから脱退を表明するなど、大きな転換点を迎えつつある中、今後、世界のサステナビリティ施策はどうなってしまうのか。前々回前回に続き、「人的資本経営」の文脈とともに解説する。
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日本の「サステナビリティ施策」はどう変わる?
(Photo/Shutterstock.com)

欧米の論調で目立つ「wash」「washing」

 サステナビリティに関して調査研究を行う人間が目にしてきたのが、欧米の論文における「wash」あるいは「washing」という表現だ。

 これはサステナビリティの文脈においては「サステナを標榜しつつ、実際にやっていることは地球環境の悪化を招くもの」であるとか「SDGsと言いつつも、実態はこれらに逆行する活動」を指して使われている。

 こうした指摘はESG投資に過度に依った欧米金融機関の活動を揶揄する場面で使用されてきた感がある。実際、外部からのプレッシャーを受け、昨今のESG投資への資金流入は大きく減少していることが知られる。

 米モーニングスター社の調査では、2024年の米国でのサステナブルファンドからの資金流出額は約200億ドルと、2023年の約70億ドルに引き続き多額に上り、ファンドからの流出額がさらに増加する結果となってもいる。

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欧米の論文では「wash」あるいは「washing」という表現が多数示されている
(Photo/Shutterstock.com)

EUの変節にみる本音と建て前とは?

 EUでは日本に先駆け「環境志向」を念頭にBEVの普及促進を掲げ、加盟各国では政府自ら多額の補助金を拠出するなどし、BEV(バッテリー式電気自動車)の普及促進とともに2035年にはエンジン車の新車販売を禁止するとしてきた。

 この背景には、ハイブリッド車で市場拡大を狙う日本車への対応によるEU諸国内の自動車産業の保護育成策が存在する。

 BEVの販売促進策に合わせ、エネルギー政策そのものも自然エネルギーへの転換が指向された。筆者らのチームは調査研究の一環で定期的に欧州を訪問し、金融ビジネスや地域公共交通の実態把握を行っている。

 たとえば、ドイツをみると、フランクフルトから郊外に向かう列車の車窓からは農村地帯に屹立する大量の風車が目に入る。ただし、実際の街中を走るのはほぼエンジン車であり、BEVはわずかだ。また、市中には電動車両への充電を可能とする充電ステーションの数も少なく、かえって東京都内よりも探すのが困難なほどである。ドイツ政府は充電ステーションの拡充を目指し、2030年までに国内の公共EV充電機の設置数を100万機にまで増加させるとの施策目標を掲げてきた。

 ところが、2022年時点では8万機弱であったものが、直近の2024年11月6日にドイツ自動車産業連合会が公表した資料によれば、14万5857機の設置にとどまっていることがわかる。

 しかも、これら充電ステーションを利用することになるBEVも、ドイツ車ではなく中国車が目立つのが実態である。2023年のドイツ国内における自動車販売台数のうちBEVの比率は最大の販売台数を誇るフォルクスワーゲングループでも8.3%にとどまる。すなわち、政府はBEV普及に向けた補助金で自国生産車ではなく安価な中国車の普及を後押しする結果となったわけだ。

 なお、そもそも中国政府は自国生産のBEVの普及促進に向け多額の補助金を支給しており、今や世界で最も安価にBEVを生産可能な国として注目されるにまでに至っている。こうして価格競争力を保持した中国製EBVが欧州マーケットに大量に流入してきている。

 思いもよらぬこうした実態を踏まえ、EUは、BEV義務化を半ば放棄し、2023年3月には合成燃料を利用するエンジン車の新車販売の2035年以降の継続販売を容認すると宣言した。「自国生産者を守るために日本車を駆逐しようとしたのに、かえって中国車に市場を席捲された」状況に歯止めをかける必要があったためだ。

 これがまさに「wash」である。すなわち、EUにおけるBEV宣言は「環境への配慮」といったものは単なる建前であり、実態は単なる自国産業保護を念頭においた「保護貿易主義」の主張であったことが露呈したということだ。 【次ページ】トランプ政権と日米金融機関「対策団体脱退」の衝撃
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