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- 2025/03/17 掲載
金融機関が着手すべき「人的資本経営」、その3つのポイントと開示規則とは?
大野博堂の金融最前線(85)
大企業であっても大卒者の3割が入社3年以内に離職
2024年10月25日、厚生労働省は「2021年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況」を公表している。就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度と比較して1.4ポイント上昇)、新規大学卒就職者が34.9%(同2.6ポイント上昇)となり、いずれも前年から増加した。離職者の推移をみると、前年調査から引き続き従業員30人未満の企業では、50%を超える離職率を記録している。さらに、会社規模が大きくなるにつれて離職率が低下する明確な傾向がみてとれる。これは、裏を返せば、人事異動などによる処遇改善策を採り得る企業であれば、離職率に一定程度の歯止めをかけることができ得るという証左でもある。とはいえ、もはや従業員数1000人を超える大企業であっても、大卒者の3割近くが3年以内に離職する時代が到来したわけだ。
業種別にみると、宿泊業、飲食サービス業の離職率の高さが際立つ。金融業は28.8%と全業種平均に近い離職率ではあるものの、インフラ産業(電気、ガス、水道)の2.5倍近い離職率を示している。
全業種を対象とした若手の離職理由をみると、20代の男性社員の離職理由は「労働時間・労働条件」を挙げるケースが最も多く、次いで「仕事の内容に興味が持てなかった」が挙げられた。
とりわけ後者では、在学中に候補業種や個別企業の分析などを十分に行うことなく、企業ブランドや企業規模で会社選定を行っているであろう背景が透けてみえるところだ。
“サスティナビリティ”は浸透も「人材」は劣後されてきた
2024年6月、1人の女性が産む子どもの数の指標となる2023年の合計特殊出生率が日本全体で1.20と過去最低となり、東京都では1.0を下回ったとの報道が世間を騒がせた。これにより、政府のこれまでの推計よりも人口減少が早まることが明らかとなった。全自治体は人口ビジョン策定による独自の人口推計を実施しており、これをインプットとして個々の政策検討や総合戦略を立案している。
したがって、今後は「より保守的な」人口推計が求められ、結果として自治体の運営戦略そのものの見直しが急務となった。つまるところ域内人口の減少は域内GDPの減少をもたらすことで、地域に立脚する地域金融機関の業績にも影響を与えるのだ。
すでに大学は全入時代に突入し、企業間での新卒者の採用活動は奪い合いの様相を呈している。ところが、前述のとおり、もはや金融機関であっても新卒者の3割が採用後3年間のうちに退職することとなれば、事業継続そのものへの影響が甚大となる。そこで注目されているのが人的資本経営だ。
ここ数年間、金融業界をはじめ各業界では、欠かすことのできないキーワードとして「サスティナビリティ」の概念が浸透してきた。コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが「ESG要素を含む中長期的な持続可能性」を掲げていることなども、こうした風潮を後押ししてきた。
ただし、サスティナビリティの概念は幅広い。国際的な議論の対象としては、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなど、取り上げられるテーマは多様だ。
ところが、日本ではサスティナビリティを狭義に捉えてきた可能性が否定できない。すなわち、環境、社会、人権…など数多ある取組みテーマのうち、少数のキーワードのみに囚われた限定的な対応に留まっている可能性が指摘されてもいる。
そこで、雇用が著しく流動化しつつある昨今の環境に対応すべく、2020 年9月、経済産業省は、企業を取り巻く環境変化への対応には、人材価値の最大化が重要と説く「伊藤レポート」を公表。人的資本経営が問われ始める契機となった。 【次ページ】伊藤レポートで紐解く「経営に欠かせない資本」とは
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