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新型コロナウイルス感染拡大の懸念の中、経済活動への制約などが徐々に緩和され、日本の社会経済は再び動き出そうとしている。しかし、多くの企業が大きなダメージを受けており、企業戦略の見直しを迫られている。今後も今回のコロナ禍のように、社会経済の大きなインパクトを与える脅威の出現も想定される。そのため、企業は持続可能性を重視した経営への転換が求められている。いわゆる、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の実現と推進だ。
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは何か?
「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」とは、不確実性が高まる環境下で、企業が「持続可能性」を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針である。
SXは、経済産業省 経済産業政策局の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が2020年8月に発行した「中間取りまとめ」の中で触れられている。企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図るために検討会は開かれており、長期的な存続を目指す企業と短期的な成長を求める投資家の対話を促すために報告書を展開している。
SXの実現に必要なものとは
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」によるとSXの実現には「“企業のサステナビリティ(稼ぐ力)”と“社会のサステナビリティ(社会課題、将来マーケット)”の同期化」が必要という。
企業のサステナビリティとなる「(1)稼ぐ力の持続化・強化」については、以下のように定義されている。
“企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、事業ポートフォリオマネジメントやイノベーションなどに対する種植えなどの取り組みを通じて、企業のサステナビリティを高めていく”
(引用:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」より)
また、「(2)社会のサステナビリティを経営に取り込む」については以下のように定義されている。
“不確実性に備え、社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿)をバックキャストして、企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な「リスク」と「オポチュニティ」双方を把握し、それを具体的な経営に反映させていく”
(引用:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」より)
さらに、これらの2つのサステナビリティを同期化することで、長期の時間軸の「対話」によるレジリエンスの強化」を図っていくという。
“不確実性が高まる中でサステナビリティを高めていくために、将来に対してのシナリオ変更がありうることを念頭に置き、企業と投資家が、(1)(2)の観点を踏まえた対話を何度も繰り返すことにより、企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高めていく”
(引用:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」より)
企業の稼ぐ力の持続性を高めつつ、将来的な社会の姿を描きながら、企業、さらには社会経済のサステナビリティを高めていくことが求められている。
なぜSXが必要なのか? その背景にあるものとは
SXが必要な理由や背景は、日本政府が開催している他の会議、たとえば成長戦略と構造改革の加速化について審議する「未来投資会議」でも示されている。2020年7月30日に開催された第42回の未来投資会議では、新型コロナウイルス感染拡大も視野に入れながら、中長期的な、不可逆なビジネスモデルの変化、産業構造の変化といった産業再生・事業再構築の重要性が議論された。
その中では、東京商工リサーチ「第6回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」(2020年7月14日公表)が基礎資料として配布されている。このアンケート調査によると、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナを見据え、「企業戦略を見直した」または「見直す予定がある」と回答した企業は71%となった。また、見直し内容としては「持続可能性を重視した経営への転換」が69%と最も多かった。
近年、多くの場で「企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進」の重要性が議論されてきた。しかし、このアンケートでは「持続可能性を重視した経営への転換」と比べると3分の1以下の21.3%ととどまっている。新型コロナウイルスの影響で、持続可能性を重視した企業戦略の見直しが大きくクローズアップされていることがうかがえる。
SXの背景にある市況とは
SXを推進する背景にある「市況」についても確認しておこう。内閣府が2020年9月8日に発表した「2020年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値」は、物価変動を除いた実質で前期比7.9%減、年率換算では28.1%減と大幅な減少となった。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の収束見通しが難しい中、景気の本格的な回復には時間を要すことが予想されている。実際、新型コロナウイルス感染症は、企業の業績に大きなマイナスの影響を与えており、それは数値にも顕著に表れている。
帝国データバンクは2020年9月9日、「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」を公表した。同調査によると、新型コロナウイルス感染症による自社の業績への影響として「マイナスの影響がある」と見込む企業は82.5%となっている。また、「既にマイナスの影響がある」が68.0%、「今後マイナスの影響がある」が14.4%となった。
業績予想の下方修正を発表する上場企業も後を絶たない。帝国データバンクが2020年9月3日に「新型コロナウイルスの影響による上場企業の業績修正動向調査(2020年8月31日時点)」を発表した。
この調査によると、「新型コロナウイルス」の影響を受けたとして業績予想の下方修正(連結・非連結)を発表した上場企業は同年8月31日までに累計1066社となり、減少した売上高の合計は約9兆6264億8400万円となった。企業にとっては、こういった状況を踏まえた企業経営の見直しがより重要になっている。
SXの実現へ「3つの課題」を解説
政府も「持続可能性」を重視した企業戦略を政策的に後押ししようとしているおり、そのような文脈で出てきたのが、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ~サステナビリティトランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」である。
新型コロナウイルス感染拡大の影響や第四次産業革命やDX、気候変動やグローバルサプライチェーンの寸断などによる「不確実性」が高まっている。経営環境は大きく変化しているという状況を踏まえ、企業が投資家と「対話」を進める中で、中長期の持続的な企業価値向上を目指す上での課題が顕在化していると指摘している。具体的には、以下の3点を挙げている。
【中長期の持続的な企業価値向上に対する3つの課題】
- 多角化経営やそれに伴う複数事業のポートフォリオマネジメントのあり方
- 新規事業創出やイノベーションに対する「種植え」に関する取り組み
- ESG/SDGsなどの社会的価値と企業の稼ぐ力・競争優位性に基づく経済的価値の両立に向けた取り組み
これまでの中期経営計画を中心とした時間軸においてリスクや成長機会を想定するだけでは、必ずしも長期の時間軸において企業価値を向上させることができなくなってきている。そこで企業と投資家の対話を促すために、長期の時間軸として「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)」という考え方を示しているのだ。
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