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- 2023/06/26 掲載
伊藤邦雄氏が「人的資本経営の現在」を辛口評価、ChatGPTに代替する仕事、しない仕事
人的資本経営コンソーシアムの現状
人的資本経営コンソーシアムは、岸田政権が「人への投資」を柱の1つとする「新しい資本主義」を打ち出したことを背景に、伊藤氏らが発起人となって22年8月に設立。23年5月時点で430社以上が参画しています。コンソーシアムを設立した伊藤氏といえば、経産省が設置する会合で自らが座長として取りまとめた、サステナビリティ経営などに関する一連の報告書、通称「伊藤レポート」で知られます。2022年5月には、経産省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」として「人材版伊藤レポート2.0」が策定されました。
人材版伊藤レポート2.0を振り返る
人材版伊藤レポート2.0では、「リスキル・学び直し」の取り組みが重要項目の1つとして位置付けられています。経営環境の急速な変化に対応するために、「社員が将来を見据えて自律的にキャリアを形成できるよう、学び直しを積極的に支援することが重要」と指摘。会社からの押し付けではなく、あくまで社員が自主的・自律的に学び直しに取り組む環境を整備する観点から、「それぞれの社員が自身の過去の経験やスキル、キャリア上の意向、強い意欲をもって取り組める楽手領域等を理解するプロセス」を会社として支援することが重要と記載されています。
(1)組織として不足しているスキル・専門性の特定
- 自社の競争力向上につながるスキル・専門性の幅広い分析
- 不足する質と量の簡易・迅速な定量化
- スキル・専門性ギャップの社内外への発信・対話
(2)社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播
- リスキルに関する責任の明確化、幹部との責任の共有
- キーパーソンへの過度な依存を防ぐ、後継者の計画的な育成
- 現職に関わらず社員がリスキルに挑戦できる機会の提供
(3)リスキルの処遇や報酬の連動
- リスキル後に期待するポジションやミッションの伝達
- 市場価値を意識した、リスキル後に期待される報酬水準の明確化
- 社員が互いに学び合う場の設置による、リスキルへの動機付け
(4)社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)
- 組織で不足しているスキル・専門性を踏まえた、社外での学習機会の整備
- サバティカル休暇や留学期間中の、会社への知識・経験の還元
- サバティカル休暇や留学中の穴埋めを行う人材の確保
(5)社内起業・出向起業等の支援
- 手挙げの文化の醸成、手を挙げた人材への機会の提供
- 事業の成功だけではなく経験に価値を見出し、幅広い起業テーマを許容
- 帰任後のスキル伝播も見据えたミッションの伝達
このようにレポートは、会社が一方的にリスキリングを社員に押し付けるのではなく、社員側の自主性をいかに引き出すかという問題意識に根付いていることが見受けられます。
また、「経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み」については、最高人事責任者(CHRO)の設置とその役割、責任の明確化などを求めています。
呼び方を変えただけの「人的資本経営」では無意味
「人材版伊藤レポート2.0」正式公表から1年近くが経過したタイミングで開かれた今回の会合。生みの親である伊藤氏は、日本企業の取組状況についてどのような評価を下したのでしょうか。「人的資本経営という言葉は非常に人口に膾炙(かいしゃ)しているが、今までの取り組みを(呼び方を)切り替えるだけの、『人的資本経営をやっているみたいな会社』もなくはない」と、伊藤氏は厳しく指摘。「名前を変えるだけではなくて我々は人材、人に対する見方を抜本的に変えよう」と呼びかけました。
リスキリングについて伊藤氏は、「機会の提供は進んでいるだろうが、課題も残っているというように思っている」と発言。
「メニューを会社が提供するのは良いが、社員の個人の側が、なんとなく“義務感風”に捉えている会社もある。本当は自律的、主体的に取り組むのがよいだろうと思うが、必ずしもそうではない」との課題認識を示した上で、リスキリングの機会を活用するため、「会社側がインセンティブを与えるような、賞賛を含めて、もう少し考えていただかないと進みにくいだろう」と指摘しました。
【次ページ】ChatGPTに代替する仕事、しない仕事
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