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事業環境が急激に変化する中、サステナビリティへの対応を経営に織り込み、長期的かつ持続的に価値を提供するSX(サステナビリティトランスフォーメーション)の実現に向けた取り組みの重要性が高まっている。経済産業省は2022年8月31日、「価値協創ガイダンス」を改訂し、SX実現のためのフレームワークとしての「価値協創ガイダンス2.0」を公表した。その取り組みや背景、今後の展望などについて事例も交えて解説する。
「価値協創ガイダンス2.0」とは何か?
「価値協創ガイダンス2.0」とは、伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)で整理した
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX) の重要性を踏まえ、SXの実現に向けた経営の強化や効果的な情報開示、建設的な対話を行うためのフレームワークを指す。
企業経営者が経営理念やビジネスモデル、戦略などの投資家に伝えるべき情報を体系的・統合的に整理し、情報開示や投資家との対話の質を高めるための手引きだ。企業と投資家をつなぐ「共通言語」として位置付けられている。
今回、「価値協創ガイダンス(2017年公表)」から「価値協創ガイダンス2.0」として改訂し、SXの意義を明示した。ガイダンスのすべての項目には、持続可能な社会の実現に向けて、企業が長期的かつ持続的に価値を提供することの重要性と、対応の方向性を明記している。
「価値協創ガイダンス2.0」改訂のポイントは?
「価値協創ガイダンス2.0」ではどの点が改訂されたのだろうか? 主なポイントは、以下の通りだ。
- SXの意義と企業の長期的かつ持続的な価値提供の重要性を明記
- 長期の時間軸で経営・事業変革を行うための「長期戦略」の項目を新設
- TCFD(※注1)提言などの「ガバナンス」「戦略」などの開示構造との整合性を確保
- 人的資本への投資や人材戦略の重要性を強調する構成へと再整理
- 価値創造ストーリー全体を磨き上げて協創することの重要性をより明確化
※注1:TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosure、気候関連財務情報開示タスクフォース
「価値協創ガイダンス2.0」の全体は、以下の6つで構成されている。
- 価値観
- 長期戦略(長期ビジョン、ビジネスモデル、リスクと機会)
- 実行戦略(中期経営戦略など)
- 成果と重要な成果指標(KPI)
- ガバナンス
- 実質的な対話・エンゲージメント
価値協創ガイダンス2.0の背景と狙い
事業環境が急激に変化する中、企業は競争優位やイノベーションの源泉となる人材や知的財産、ブランドなどの無形資産へ投資することが重要となっている。また、投資家は非財務情報をベースとしたESG投資を積極的に推し進めていくことへの重要性も高まっている。
企業は、投資家との対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げる「価値協創」を加速させることが重要であり、そのための企業と投資家をつなぐ共通言語が必要となっている。
こういった状況の中、経済産業省は2017年に、企業固有の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示・対話につなげるためのフレームワークとして「価値協創ガイダンス」を策定した。
その後、経済産業省は2022年8月に「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」を公表。SXの実現に向けて長期経営に求められる内容や、価値協創ガイダンスに取り込んでいくための内容とSXの重要性を盛り込んでいる。
「価値協創ガイダンス2.0」は、「伊藤レポート 3.0」で明記されているSXの実現に向けた長期経営や対話を具体的に落とし込んでいくための実践編として位置付けられている。
また、「人材版伊藤レポート 2.0」や「人的資本可視化指針」などともあわせて、フレームワーク全体を一体的・整合的に活用することが推奨されている。
そして経済産業省は、「価値協創ガイダンス2.0」を通じて、企業のSXの実現に向けた実践的な取り組みを後押しする。
価値協創ガイダンス2.0の目的とは
「価値協創ガイダンス2.0」は、企業と投資家が統合思考に基づく情報開示や対話を通じて互いの理解を深め、持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的としている。
そして、以下のとおり、企業経営者と投資家双方の手引きや「共通言語」としての位置付けを期待されている。
<企業経営者の手引きとして>
企業経営者が、統合思考に基づき自らの経営理念やビジネスモデル、戦略、ガバナンスなどを一連の価値創造ストーリーとして投資家に伝えるための手引きとして位置付けている。
企業は、情報開示や投資家との対話を通じて、経営者が企業価値創造に向けた自社の経営の在り方を整理する。そして、経営の効率化・強化を確実に実行してSXを実現するためのマネジメントツールとして活用し、具体的なアクションにつなげることが期待されている。
<投資家の手引きとして>
投資家が中長期的な観点から企業を評価し、投資判断やスチュワードシップ活動に役立てるための手引きとして位置付けている。
本ガイダンスは、長期的かつ持続的な企業価値向上に関心を持つ機関投資家や個人投資家を主な対象としている。
投資家は、企業との情報・認識ギャップを埋めていくために本ガイダンスを参照して企業と対話を行い、自らの投資判断などに必要な情報を把握することが期待されている。
<共通言語として>
本ガイダンスが企業の情報開示や投資家との対話の質を高めるための「共通言語」として機能するために、本ガイダンスが実践的な取り組みに活用されることが期待されている。
【次ページ】価値協創ガイダンス2.0を実現するために求められる取り組み
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