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経済産業省は2022年8月、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」および「価値協創ガイダンス2.0」を公開した。この2つは互いに密接に関連しているが、本稿ではこのうち価値協創ガイダンス2.0に焦点を当て、経済産業省がこれを作成した狙いやその背景、企業や投資家にとっての価値などについて同省 経済産業政策局 企業会計室長 長宗豊和氏に話を聞いた。
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹
企業が投資家とともにSXを実践していくための「手引き」
「価値協創ガイダンス2.0」は、2022年8月に同時に公開された「伊藤レポート3.0」と合わせて一組のセットとして参照・利用されるべきものとして位置付けられている。ちなみに伊藤レポート3.0の方は、2021年5月に経済産業省内に発足した「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」の報告書という体を取っており、企業と投資家に対して「
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX) 」の重要性を説いている。
経済産業省ではこのSXについて、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを『同期化』させていくこと、およびそのために必要な経営・事業変革」と定義している。長宗氏によれば、価値協創ガイダンス2.0は企業がこのSXを実践する際の「手引き」として参照できるものを目指したという。
「伊藤レポート3.0を読んでSXやサステナビリティ経営の重要性を理解できたとしても、それを実践に移す段になると『どうやって経営や事業活動の中に落とし込めばいいか分からない』と立ち止まってしまう企業が大半です。そこで、SXを実践するための具体的なステップや重要なポイントを手引書としてまとめたのが価値協創ガイダンス2.0です」(長宗氏)
なお「2.0」という名前が付いている通り、価値協創ガイダンス2.0は2017年に公開された「価値協創ガイダンス」のアップデート版である。初版の価値協創ガイダンスは、企業と投資家が密接な対話を通じて、長期的な視野に立った持続性のある企業価値をともに「協創」するためのガイドラインとして作成された。ここでは主にESG情報をはじめとする非財務情報の開示や無形資産投資などの重要性をクローズアップしているが、価値協創ガイダンス2.0ではこれらに加え、昨今におけるサステナビリティ経営への注目の高まりを受けてSXの概念を大幅に取り込んでいる。
「特に長期の時間軸で経営・事業変革を行うことと、SX実現の具体的な方策である『イノベーション』『DX』『人材戦略』の重要性を強調しています。その上でSXを通じた価値創造を企業だけでなく、企業と投資家の対話を通じて長期的な戦略を互いに共有し、よりブラッシュアップしていくことを提唱しています」(長宗氏)
企業と投資家の対話を深めるための「共通言語」
価値協創ガイダンス2.0ではSX実践の第1ステップとして、まずは社会の課題解決に対して企業および社員一人ひとりが取るべき行動の判断軸または判断の拠り所となる「価値観」を定義することを挙げている。次にこの価値観に基づいて、社会全体の長期的な動向とそれに呼応する自社の方向性を「長期ビジョン」として定める。その上で、このビジョンを実現するための柱となる「ビジネスモデル」を構築していく。その際には、長期的なリスク要因や事業機会となり得る外的・内的な要因を把握・分析した上で、事業戦略に適宜反映させていく。
このように、まずは長期的な視野に立って自社の将来ビジョンや「To be(将来あるべき姿)」を定義した上で、そこからバックキャストする形で「To beに到達するために何を為すべきか」という順番で具体的なビジネスモデルやビジネス戦略、KPI、ガバナンス体制へと落とし込んでいくというのが、価値協創ガイダンス2.0が示すSX実践の大まかな手順だ。
さらに価値協創ガイダンス2.0では、これら「価値観」「長期ビジョン」「ビジネスモデル」「リスクと機会」「実行戦略」「KPI」「ガバナンス」のそれぞれの領域につき、検討すべき重要ポイントを幾つか挙げている。加えて、これら各取り組みについて企業の内部に閉じて検討・実施するのではなく、投資家との「実質的な対話・エンゲージメント」を通じてともに価値創造ストーリーを築き上げていくことが重要だとしている。
「企業単独の視点で見るより、場合によっては投資家の方がサステナビリティや事業環境、競合他社の状況などをより広い視野で俯瞰できます。従って企業も投資家との対話を通じてそうした知見を取り入れながら、より長期的な視野に立った経営を行っていく必要があります。価値協創ガイダンス2.0はそうした対話を行う上での『共通言語』として使ってもらいたいと考えています」(長宗氏)
また同時に、企業が自社内でSXについての議論を始めるための「きっかけ作り」としても活用されることを想定しているという。社内のある特定の部署がSXの重要性を説いたとしても、経営陣が理解を示してくれなければ全社的な取り組みにはなかなか発展しない。あるいは経営トップがSXの方針を打ち出しても、現場の気運が高まらなければやはり長期的な実践は望めない。
「社内で多くの人がSXの重要性を理解しているにもかかわらず、なかなか経営レベルの議題へあげられないようなときに、『政府がこんなものを出していますよ』と価値協創ガイダンス2.0を持ち出せば議論のきっかけになるかもしれません。そうやって議論の輪がどんどん広がっていけば、私たちとしても政策目標の7~8割は達成できたも同然だと思っています」(長宗氏)
【次ページ】価値協創ガイダンスをベースに「統合報告書」を作成
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