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  • 2022/12/27 掲載

伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)とは何か? その概要とまとめ

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気候変動や人権問題、パンデミック、経済安全保障など、事業環境が急激に変化している。こういった状況の中、企業はサステナビリティへの対応を経営に織り込み、「稼ぐ力」を高め、企業価値を向上していくことが、重要となっている。経済産業省は2022年8月31日、「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」の報告書として、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」を取りまとめ公表した。本記事では、伊藤レポート3.0の解説を通じて、企業の経営戦略としてのサステナビリティへの対応、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)の実践、SXの実現に向けた具体的な取り組みなどについて、解説する。
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伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)とは?
(Photo/Getty Images)

伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)とは何か?

 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)とは、経済産業省が2022年8月31日発表した、「企業や投資家などが協働して長期的かつ持続的な企業価値を向上させるため」に作成された報告書である。価値向上の手段として、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX) の要諦を整理するとともに、SXの実現に向けた具体的な取り組みについて整理している。

 SXとは、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を「同期化」させるために必要な、経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。

 「社会のサステナビリティ」とは、気候変動や人権への対応など、社会の持続可能性の向上を指し、「企業のサステナビリティ」とは、「社会の持続可能性につながる長期的な価値を提供すること」と、「自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上」のことだ。

 伊藤レポート3.0では、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」の2つを同期化するべく、企業と投資家などの市場プレイヤーの対話が「SX実現に向けた強靭な価値創造ストーリーの協創」を促すとしている。

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サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは
(出典:経済産業省 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート) 2022.8.31)

伊藤レポート3.0が作成された背景とその狙いとは?

 伊藤レポート3.0が発表された背景には何があるのか。「伊藤レポート」「伊藤レポート2.0」を振り返りながら解説する。

 「伊藤レポート」(2014年に公表)では、日本企業がイノベーション創出力を持ちながらも「持続的低収益に陥っている」という課題が顕在化していることを示した。投資家の短期志向(ショートターミズム)により、長期的なイノベーションに向けた投資が困難になっているとした。

 そして、長期的なイノベーションに向けた企業による再投資と、中長期の視点を持つ投資家からの投資により、中長期的な企業価値向上を実現するため、両者の協力関係の構築(エンゲージメント)が重要である点を挙げた。資本効率性の観点からは、資本コストを上回る「ROE(自己資本利益率)8%の達成」を提言した。

 「伊藤レポート2.0」(2017年公表)では、企業による再投資においては、競争優位・イノベーションの源泉となる「無形資産投資」の重要性を示した。無形資産投資やESGへの対応が、中長期的な企業価値向上のために必要な「投資」であることをストーリーとして説明することの必要性を挙げた。同時に、企業と投資家の対話の「共通言語」として、「価値協創ガイダンス」を策定している。

 これまで経済産業省では、中長期的な企業価値向上を実現するための取り組みを推進してきたが、日本企業の資本効率性は依然として欧米企業に水をあけられている。長期成長に向けた投資も伸び悩んでおり、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)や企業価値の向上は、今や待ったなしの状況にある。

 欧州や米国では気候変動問題、人権問題をはじめとしたサステナビリティ課題をめぐる状況は、企業活動の持続性に大きな影響を及ぼしている。「サステナビリティ」への対応は、企業が対処すべきリスクであることを超えて、長期的かつ持続的な価値創造に向けた経営戦略の根幹をなす要素となりつつある。

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伊藤レポート3.0の概要
(出典:経済産業省 伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0の概要 2022年8月)

 外部の調査をみても、CxO層のサステナビリティへの対応の重要性は高まっている。ガートナーが2022年5月に公表した世界のCEOおよび上級幹部を対象にした調査では、CEOの74%は、ESG (環境、社会、ガバナンス) への取り組みの強化によって投資家に自社の魅力を高められると回答している。また、競争上の差別化要因について上位2つを尋ねた設問では、CEOはサステナビリティと「自社ブランドへの信頼」を同等レベルに挙げている。

 伊藤レポート3.0では、サステナビリティ課題に対応しない企業は、投資家、消費者、労働市場から評価を得ることが難しく、結果として事業活動の継続に影響が生じるケースも多くなってきているという。世界的に加速するサステナビリティへの対応の動きは、日本の企業にとって大きな試練であり、同時に、チャンスでもあると指摘している。

 経済産業省では、これまでの伊藤レポートにサステナビリティを織り込んだメッセージを示すことで、企業の「稼ぐ力」と、企業価値の向上を後押しする狙いがあるのだ。

伊藤レポート3.0のメインテーマ「SXの実現」に向けた課題

 伊藤レポート3.0に書いてあること≒SX実現の上での課題とは何か。事業環境が複雑化する中、企業は、どのような事業活動が社会のサステナビリティに資するか、そして、それらの活動がどのように企業価値の向上につながるか、経営視点での判断が難しいケースが多い。

 また、サステナビリティへの対応は、長年の社会課題であり、課題解決を通じて企業の利益創出につなげていくことは、難易度が高い。企業経営や投資行動が短期志向になってしまうと、長期目線でイノベーションに取り組み、事業としてスケールさせることが困難になる。

 社会のサステナビリティに関する課題は社会共通の課題であることから、当然、企業活動にも共通して、影響力を及ぼすものである。各企業の行動が共通化し、独自性を発揮しづらくなることで、利益の取り合いに陥る危険性もある。

【次ページ】伊藤レポート3.0 に書いてあることを実現するには(SXの実現に向けて)
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