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企業における「人的資本」への関心度が高まっている。経済産業省は2022年5月13日、「人材版伊藤レポート2.0」を公表した。これまで、経済産業省は「人的資本経営の実現に向けた検討会」を設置し、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかという点について、議論を重ね、そのとりまとめを公表している。本記事では同レポートの概要を解説する。
「人材版伊藤レポート2.0」とは?
「人材版伊藤レポート2.0」とは、伊藤邦雄氏が座長を務める「人的資本経営の実現に向けた検討会」(経済産業省)がとりまとめた報告書である。人材版伊藤レポート2.0では、前の版である人材版伊藤レポートで示した「人材戦略の変革の方向性」「経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割」「人材戦略に共通する視点や要素」の内容をさらに深掘り、高度化している。
このレポートをまとめた伊藤邦雄氏は、2014年には経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の座長を務め、その最終報告書として「伊藤レポート」を2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表し、人的資本経営による価値創造の重要性を訴求していた。
より具体的に人材版伊藤レポート2.0の内容に言及すると、以下の3つの視点、5つの共通要素を枠組みとして「実行に移すべき取り組み」や「その重要性」、「有効となる工夫」を示している。
・3つの視点(Perspectives)
視点1:経営戦略と人材戦略の連動
視点2:「As- is To be」ギャップの定量把握
視点3:企業文化への定着
・5つの共通要素(Common Factors)
要素1:動的な人材ポートフォリオ
要素2:知・経験のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)
要素3:リスキル・学び直し(デジタル、創造性等)
要素4:従業員エンゲージメント
要素5:時間や場所に捉われない働き方
これらの共通の要素に加え、自社の経営戦略上で重要な人材アジェンダについて「企業は経営戦略とのつながりを意識しながら、具体的な戦略やアクション、KPIを考えることが有効である」としている。
「人材版伊藤レポート2.0」検討の背景と狙い
現在の社会はデジタル化や脱炭素化、コロナ禍における人々の意識の変化など、経営環境が急速に変化している。そうした中で「人的資本経営」による経営戦略と人材戦略の連動が重要となってきた。
人的資本経営とは、これまでは企業が人件費のコストとしてみていた人材を、企業の成長の源泉となる「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方を指す。
国内の人的資本に関する取り組みとしては、2021年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」において、人的資本に関する記載が盛り込まれた。一方、人的資本に関する日本企業の取り組みは道半であり、さらに一歩踏み込んだ具体的な行動が求められていると指摘する声もある。
人材版伊藤レポート2.0では「人的資本」の重要性を認識し、人的資本経営という変革をどう具体化し、実践に移していくかに主眼が置かれている。このため、人的資本経営の実現のために有用となるアイディアを提示。同レポートからアイディアの引き出すことで、経営陣が人的資本経営へと向かう変革を主導していくことを期待するものとして位置づけている。
人材版伊藤レポート2.0の構成概要と8つの重要ポイント
人材版伊藤レポート2.0では、前述したそれぞれの視点や共通要素を人的資本経営で具体化するために実行に移すべき取り組みや、その実践ポイントや有効な工夫点などを以下の8つの項目で示している。
経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み
「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取り組み
企業文化への定着のための取り組み
動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用
知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取り組み
リスキル・学び直しのための取り組み
社員エンゲージメントを高めるための取り組み
時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取り組み
以降から、それぞれの8つの項目についてポイントを解説する。
・1. 経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み
同レポートでは、最も重要な視点がこの「経営戦略と人材戦略の連動」であり、人的資本経営の実践の第一歩として位置づけている。経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略と表裏一体で、その実現を支える人材戦略を策定し、実行することが不可欠だと説いている。
そして、自社に適した人材戦略の検討にあたっては「経営陣が主導し、経営戦略とのつながりを意識しながら、重要な人材面の課題について具体的なアクションやKPIを考えることが求められる」と説明する。
また、この取り組みにおける具体的なアクションとして以下の7項目を掲げている。
(1)CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)の設置
(2)全社的経営課題の抽出
(3)KPIの設定、背景・理由の説明
(4)人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
(5)サクセッションプランの具体的プログラム化
(6)指名委員会委員長への社外取締役の登用
(7)役員報酬への人材に関するKPIの反映
・2. 「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取り組み
経営戦略実現の障害となる人材面の課題を特定した上で、課題ごとにKPIを用いて、目指すべき姿(To be)の設定と現在の姿(As is)とのギャップの把握を定量的に実施する。この取り組みは、人材戦略が経営戦略と連動しているかを判断し、人材戦略を不断に見直していくために重要だという。
(1)人事情報基盤の整備
(2)動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
(3)定量把握する項目の一覧化
【次ページ】人材戦略の構築と人的資本の可視化による相乗効果
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