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- 2025/02/26 掲載
金融機関にも不可欠、今さら聞けない「人的資本経営」とは何か
大野博堂の金融最前線(84)
企業に加わる人的資本可視化へのプレッシャー
企業には、ESG投資への関心の高まりを背景とした投資家からの要請に加え、既にこの分野で先行している欧米からの政府レベルでのプレッシャーが加わってきている。その結果、環境面などへの対応は進んだものの、「ヒト」にフォーカスした対応が日本では放置されてきたと言っても過言ではない。そのため、企業はこれまで「リソースの1つ」としてみなしてきた従業員からのプレッシャーにもさらされることになった。
このように、企業競争力を左右するリソースとして企業が経営上の重要課題の一つとして位置付けはじめているのが「人材(人財)」である。中でも「人材の育成・確保」は各社とも課題を抱える状況にある。上場企業では有価証券報告書での開示が義務付けられた「人的資本経営」だが、未上場企業でも企業価値向上に資する視点が盛り込まれており、経営手法としての活用が望まれているところだ。
反面、留意せねばならないのは、従業員を宝のように取り扱うばかりではなく、今後は、経済安全保障対応や内部不正/犯罪などを念頭に、人材の「峻別」「評価」も欠かせないポイントとなることである。
パーパス経営の要諦と人的資本経営への流れ
パーパス経営とは、自社の存在意義を明確にし、どのように社会貢献していくべきか、経営としてその目的を掲げるものだ。利益至上主義の「資本経営」に対応して最近は「志本経営」とも紹介されている。2015年の国連サミットでSDGsが採択され、2030年までの行動目標が明確に示されたことを契機に、企業における活動が活発化。これを実現するための企業としての目的を示すためにパーパス経営が志向されはじめた。
これは、2018年に投資会社ブラックロックのラリー・フィンク氏が、投資先企業に「企業評価の新たな尺度」について言及したことが始まりとされる。日本では、京都先端科学大学の名和高司教授が「パーパス経営」を上梓したのをきっかけにブームが到来したことは記憶に新しい。
ところで、このパーパスは、これまで企業が掲げてきた「理念」「ビジョン」とは何が異なるのだろうか。
図は筆者の理解によるところを整理したものだ。
いわゆる企業理念が組織として重視する経営者の思いや考え方を示すものである一方、パーパスは、企業の存在意義や社会的価値を高めるために掲げる「目的・意思・意図」といったものと解される。これを踏まえると、パーパス経営とは、企業の存在意義や社会的価値を重視した経営そのもの、と定義できる。
また企業ミッションは、パーパスの実現に向けた企業の行動指針、企業のビジョンは、ミッションを完遂した後の「企業のあるべき姿=ゴール設定」ということになろう。
筆者が非常勤役員を務める地域金融機関も、従業員主導型でワークセッションを重ね、パーパスを掲げるに至るなど、実際にパーパス経営を標榜する企業は増加している。
たとえば、ソニーでは、パーパスを実現するための価値創造の基盤として「テクノロジー」と「人材」の二つを定義しているのが特徴である。
そのうえで、パーパスを「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」としている。また、このパーパスを通じて、価値創造の基盤として「テクノロジー」と「人材」にフォーカス。これらが多様な事業ポートフォリオを生み出すファンダメンタルとなり、経営の方向性として「クリエイターとユーザー間の距離の短縮化」を実現しようというものだ。
また、味の素では、パーパスとして「食と健康の課題解決」を掲げている。従業員のASV(Ajinomoto Group Shared Value)エンゲージメントを高め、「志」でつながる多様なパートナーとエコシステムを構築することを標榜。
イノベーションとエコシステムによる価値共創で、顧客価値を向上し、さらに経済的価値を創出するサイクルへと繋げることで、企業価値の持続的向上を企図している。なかでも組織資産として4つが例示されているのが特徴だ。
- 物的資産
- 金融資産
- 顧客資産
- 人材資産
とりわけ人材資産としての「従業員」に注目し、企業価値創出を目指すとしている。 【次ページ】先行事例からみえてきたパーパス経営を打ち出す際のポイント
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