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新型コロナウイルスの感染拡大による金融市場の混乱が続いている。感染症が拡大すると世界経済に影響が及ぶので、市場がある程度、動揺するのは予想されていたことではある。しかしながら、今回は、米国の景気後退が取り沙汰されるタイミングであったことから、一部の市場関係者はコロナウイルスによるショックが、リセッション入りのきっかけとなることを危惧している。
前代未聞の市場の動き
2020年2月24日のニューヨーク株式市場はダウ平均株価が1,000ドルを超える下げ幅となり、翌25日の東京株式市場も日経平均株価が一時1,000円以上、下落する騒ぎになった。3月9日にも原油価格の暴落をきっかけにダウが2,000ドルも値を下げるなど市場の混乱が続いている。こうした事態を受けて米国の長期金利は急低下。3月9日の段階で0.5%割れという異常事態になっている。
2002年末から2003年春にかけてSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大で各国の市場が混乱するという出来事があったが、この時は、香港株式市場のハンセン指数が年明け以降、最大で約14%下落、ダウ平均株価は16%下落、日経平均株価は14%下落した。この下落幅は感染が拡大してから終息するまでの全期間を通じたものだが、今回、ダウ平均株価はすでに最大で約19%、日経平均は22%も下がっているので、SARSの時よりも市場のショックは大きい。
ウイルスの拡大で世界経済の混乱が予想され、株価が下がるのはある程度、織り込み済みだが、今回は少し気になる兆候が見られた。実は株価が大幅に下落する1週間ほど前から、為替市場と金先物市場が大きく動いていたのである。
2月18日以降、外国為替市場では円を売ってドルを買う動きが活発となり、1ドル=109円台だったドル円相場は一時、1ドル=112円を突破するまでに急騰した。その後、一転してドルは売られ、3月9日には一時、1ドル=101円台まで円が上昇した。まさに乱高下だが、1ドル=112円台を突破したのは2019年4月以来、10カ月ぶり、逆に101円台を付けたのは2016年11月以来、3年4カ月ぶりのことである。ほぼ同じタイミングで金価格も急上昇しており、1オンス=1,500円台だったニューヨークの金先物相場は一時、1オンス=1,700ドルに迫る水準まで上昇している。
今回の為替市場や金先物市場の動きは関係者を少々驚かせた。
近年、世界経済に対する不安が高まると安全資産である円が買われるというステレオタイプな見方が一般的となっており、景気見通しが悪化すると円が買われるパターンが多かった。現実には安全資産として円が買われているのではなく、米国でのポジションを縮小した日本の機関投資家が資金を日本円に戻していることが原因だが、今回はこのパターンが大きく崩れ、一気にドル高が進んだ。
円高を見越していた投機筋の見通しが外れ、ドルを買い戻したことが急激な円安の原因といわれており、その後は、急激に円高に戻している。だが、不景気=円高という従来の図式が成立しなくなったという点では、やはり大きな変化といって良いだろう。
金とビットコインはさらに市場を先読みしていた
金も同じである。金とドルは表裏一体の関係にあり、一般的に米国の景気が良好な時は、金は売られる傾向が強かった。だが、ここ最近は米国の景気が絶好調であるにもかかわらず金が買い進まれており、ウイルスの感染拡大をきっかけにさらに急騰している。
実はビットコイン市場でも動きが出ていた。1BTC=7,000ドル台で低迷していたビットコインが年初から顕著に上がり始め、2月には9,000ドル台に上昇、一時は1万ドルを突破するなど活発な取引となった。その後、下落に転じているのも円や金と同じである。
最初にビットコインに動きが見られ、それが金、為替市場に波及し、最終的に株式市場の下落につながったという流れだが、これは一体何を意味しているだろうか。
ビットコインや金先物の投資家はかなり先鋭的なので、コロナウイルスがもたらす影響をもっとも早い段階で察知したことは想像に難くない。だが為替市場でも円が売られるという異変があったことを考え合わせるとコロナウイルスだけが原因というわけではないだろう。
今回の値動きの背景には、世界の投資家における共通の不安要素として台頭しつつある、米国経済のリセッション(景気後退)入りに対する懸念が存在すると考えるのが自然だろう。
【次ページ】単なるコロナショックか、それともリセッション入りの兆候か?