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日本の長期金利がとうとう1%を超えた。市場の一部からは国債価格の下落によって日銀の財務体質の悪化を懸念する声が上がっている。たしかに金利が上昇すると日銀の財務は悪化するが、評価損の増大そのものは大きな問題ではなくなっている。
想定外の円安が状況を変えた
このところ債券市場では国債を売る動きが活発になっており、長期金利が上昇している(国債の価格が下がると金利は上昇し、国債の価格が上がると金利は下がるという関係が成立する)。金利が上昇しているのは、日銀が国債の金利を低く抑えるイールドカーブ・コントロール(YCC)と呼ばれる政策を今年3月に撤廃し、長期金利について市場に任せる方針を明確にしたからである。
本来、中央銀行というのは長期金利についてはコントロールの対象とせず、あくまで金融機関とのやり取りに関連する短期金利をコントロールすることをその責務としてきた。だが異次元の緩和策を実施するにあたっては、長期金利の制御が必須となり、国債の買い入れ額を調整することで意図的に長期金利を低く抑えるYCCと呼ばれる政策を導入し、それに伴って長期金利は長くゼロ近傍に張り付いていたままとなっていた。
日本経済は物価上昇が進んでおり、金利の動向を市場に任せれば、長期金利が上昇することはほぼ確実と言える。しかしながら、現時点の物価上昇率であれば、金利が短期間で急騰する可能性は低く、日銀としても、すぐに長期金利は上がらないという算段だったに違いない。
だが、こうした状況を想定外の円安が変えつつある。
外国為替市場では急ピッチで円安が進んでいる。政府が2度の為替介入を実施したこともあり、1ドル=160円手前で何とか押しとどめられているものの、今後も円安は進みやすい状況が続く。
円安が進むと輸入物価の上昇を通じて国内のインフレが激しくなるので、国内市場にとっては物価上昇圧力となる。長期金利は最終的には物価見通しと連動して動くことから、円安と物価上昇が進むという見立てが強くなれば、長期金利の上昇幅も大きくならざるを得ない。
こうした状況から債券市場では国債を売る動きが活発となっており、長期金利がジワジワと上昇。とうとう1%を超えた。もともと日銀は秋の金融政策決定会合でゼロ金利を解除し、長期金利のさらなる上昇について一定程度容認し、金融正常化への道筋をつけるとともに、円安に対する防波堤にするつもりであった。
簿価会計か時価会計なのは些末な問題に過ぎない
だが、日銀の意図とは裏腹に、ゼロ金利解除前に長期金利は上昇を始めてしまった。これは何を意味しているのかというと、日銀の行動が市場を変えるのではなく、市場が先に動き、日銀の決断を逆に市場が促すという、いわゆる催促相場になっている可能性が高い。
日銀は秋にゼロ金利を解除する予定だったが、一部ではそれを前倒しするとの見方も出てきている。こうした状況になると、仮に利上げの前倒しが行われなかった場合、市場の失望を誘い、さらに国債の金利が上がって、より大規模な利上げが求められるという、日銀にとって好ましくないスパイラルに陥る可能性も出てきている。
市場の一部からは、金利の上昇に伴って日銀が保有する国債の価格が下がり、日銀の財務体質を悪化させているとの指摘が出ている。
国債の価格が下がれば、600兆円の国債を保有している日銀にとって理論上、巨額の含み損が発生する。日銀は現時点における国債の評価損は9兆4,337億円であるとしている。2024年3月期における日銀の純資産は約5.8兆円、債券の損失引当金は約7.0兆円なので、今のところ、損失額はこれらを足し合わせた自己資本を下回っている。だが、さらに金利が上がって債券価格が下落した場合には、日銀が実質的債務超過に陥る可能性は否定できない。
だが筆者は、日銀の債務超過転落がすぐに深刻な問題を引き起こすとは考えていない。それは一部の論者が指摘するように日銀が簿価会計だからというテクニカルな理由ではない。
時価会計、簿価会計は財務諸表に記載する際の単なるルールの問題であって、時価会計であろうが簿価会計であろうが、市場は常に実勢価格で資産を評価する。したがって、簿価会計であることそのものがリスク回避の理由にはならない(これは財務会計の基礎知識がある人なら当然の認識である)。
【次ページ】日銀「債務超過」でも…本当に問題ナシなのか?
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