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円安の勢いが止まらず、約24年ぶりに一時1ドル=137円にまで達した。いつまで円安は続くのだろうか。一般的に円安の原因と説明される「キャリー取引」や、その取引のリスクをヘッジする「為替先物取引」の状況を見ると、世界の投機筋は「今より円安が進む」と予測して投機取引を行っているようだ。なぜ投機筋は円安が進むと見ているのか。そしてここで極めて危険なことがこの投機取引が自己増殖的に増えているということだが、それによりどういったことが起こるのか。
一般的に説明される円安の要因「キャリー取引」とは?
異常といえるほどの円安が続いている。そしてこれが、物価高騰を加速させている。
なぜ円安が進むのか?それは「日米間で金利差があるからだ」と説明されている。この説明は間違いではない。しかし、実際はそれほど簡単ではない。これについて、以下に説明しよう。
今、米国の金利が日本より高いとしよう。この時、日本で円の資金を借り、それをドル建ての資産に替えて運用し、一定期間後に日本円に戻すという取引を考える。これは、「キャリー取引」と呼ばれるものだ。
米国での運用利回りが日本の借入金利より高ければ、その差額だけの収益を上げられるから、この取引は利益を生むように思われる。次のような数値例で考えよう(実際の値とは異なるが、計算を簡単にするために、このような数字を用いる)。
1ドル=135円
日本の金利:0%
米国の金利:5%
契約期間:1年(1年後に日本円に戻す)
日本円で100万円を借りてドルにすると、0.74万ドルになり、1年後には元利合計が0.78万ドルになる。この時の為替レートが1年前と変わらなければ、105万円になる。100万円を返却すれば、5万円の利益が発生する。
この取引では、最初に円を売ってドルを買っている。したがって、こうした取引が行われることによって、円安が進むことになる。以上が普通に行われる円安の説明だ。
なお、キャリー取引の対象は円だけではない。つい先頃まで、スイスフランも対象とされていた。スイスも、日本と同じく低金利政策をとっていたからだ。
ところが、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)は、6月16日に金融政策を転換して利上げを行った。この結果、外国との金利差が縮小しキャリー取引が縮小した。そして、それまでのスイスフラン安から、フラン高に転じた。
このことからも、キャリー取引が為替レートに大きな影響を与えることが分かる。
先物取引で損失リスクを減らす
ところが以上の説明は不十分なものだ。なぜなら、上の計算では為替レートが変わらないと仮定したが、実際には円に戻す時に円高になっている可能性もあるからだ。それによる差損が、金利差収益よりも大きくなるかもしれない。その場合には、キャリー取引は損失をもたらす。
つまり、キャリー取引は非常にリスクの高い取引だ。
ここで、キャリー取引に加えて為替先物取引を利用することが考えられる。為替先物取引とは、「今決めた価格で、将来、取引をする」という約束である。
これを用いれば、将来時点で円に戻す時のレートを確定することができるので、将来における不確実性はなくなる。これを「ヘッジする」という。
現物と先物の取引で運用益がゼロになる「金利平価式」
ところで、現物価格と先物価格は独立に決まるのではない。これらの間には、必ず次の関係が成り立つ(円とドルの取引の場合)。
円の先物価格=(1+日米間金利差)×円の現物価格
この関係を「金利平価式」という。これにより、次の関係を直ちに導き出せる。
先物価格で計算した円の増価率=日米間金利差
つまり、「『円キャリー取引+先物によるヘッジ』という取引をすると、利益はゼロになる」ということだ。
先に挙げた数値例を当てはめると、次のようになる。
円の現物価格:1円=1/135ドル=0.0074ドル
円の先物価格(1年後の契約実行時の価格):1円=1.05/135=0.0078ドル
先物価格で計算した円の増価率:5%
【次ページ】投機筋が「今より円安になる」と予想するワケ
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