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  • 2022/05/23 掲載

円安は「日銀の強硬策」が根本原因? これから来る“最悪のシナリオ”

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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米連邦準備銀行(FRS)は2020年、大規模な金融緩和を行って株価を支えたが、2021年秋から賃金と物価が上昇した。このため、金融引き締めに転換し、2022年3月と5月には政策金利を引き上げた。ところが、日銀は金融緩和を維持している。このため、3月以降、急激な円安が進み、その先には最悪の経済シナリオに陥る可能性もある。これに対処するためには、長期金利の抑制を止めるべきだ。
執筆:野口 悠紀雄
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円安の先に来る「最悪のシナリオ」とは何か。その事態を避けるためになぜ長期金利の抑制を止めるべきなのか
(写真:つのだよしお/アフロ)

米国発「マネーの大変動」

 今、マネーの世界で、米国発の大変動が起きている。これによって、金利や為替レート、そして株価が大きく変動している。

 なぜ、このような変動が起きたのか? それは企業活動や国民生活にどのような影響を与えるのか? それに対して、どのような政策が必要か? こうした問題を、国民の一人ひとりが考える必要がある。

 ところが、金融にはテクニカルな概念が多いので、大変分かりにくい。

 今何が起こっているのかを正確に理解するためには、金融に関する正確な理解が必要だ。以下では、金融に関連する基礎概念を説明しつつ、世界で今起きている大変動を見ることとする。

「政策金利」とは何か、日米の違いは?

 「各国の中央銀行が利上げを行っている」という記事が、毎日のように新聞に出ている。

 利上げの対象となっているのは、「政策金利」と呼ばれるものだ。では、政策金利とは具体的に何を指すかのか? 政策金利は多くの国民にとって身近なものではないため、それがどういうものなのかを、なかなか把握しにくい。

 政策金利は、短期の金利であって、中央銀行が直接にコントロールしやすいものだ。具体的に何であるかは、国によって違う。

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各国の中央銀行がインフレ抑制で行っている利上げは政策金利が対象だが、その内容は国によって異なる
(Photo/Getty Images)

 米国の場合には、「フェデラルファンド・レート」と呼ばれる。これは、連邦準備銀行(FRS)の加盟銀行がFRSに預け入れるべき資金が不足している場合に、短期資金を借り入れる市場で成立する金利のことだ。

 日本の場合の政策金利は、日銀当座預金の超過準備高に課されている金利だ。これは、少し分かりにくい。

 まず、「日銀当座預金」とは、民間の金融機関が日銀に預けている当座預金だ。預金残高の一定率の準備金を積むことが義務付けられている。現在は、この額を超える金額が預金されている。

 この預金は銀行間の振替のために用いられている。

 これまでは、当座預金に対してプラスの金利がついていたのだが、2016年からは、一部の預金残高にマイナス0.1%が課されている。したがって、現在の日本の政策金利はマイナス0.1%だ。

日本特有の「イールドカーブ・コントロール」

 金利には、さまざまなものがある。預金の金利、国債の金利、企業への貸し付けの金利、住宅ローンの金利などだ。また、短期の金利もあるし、長期の金利もある。

 金融政策に大きな関係があるのは、国債の金利だ。国債は市場で常時取引が行われており、その利回りが日々変動する。国債の金利も期間によってさまざまなものがある。「長期金利」とは、10年国債の市場での利回りを指す。

 横軸に期間を、縦軸に利回りをとると、右上がりの曲線を描ける。これを、「イールドカーブ」という。イールドカーブはなぜ右上がりなのか? つまり、期間が長いほど金利が高いのはなぜだろうか?

 その理由は、さほど簡単ではない。リスクヘッジ需要に借り手と貸し手で差があるのが基本的な理由だ。これについての詳しい説明は、拙著『金融政策の死』(日本経済新聞出版社、2014年)を参照されたい。

 異なる期間の利回りには一定の関係があるので、中央銀行が短期金利を操作すれば、長期金利にも影響が及ぶことになる。このため、世界の中央銀行は、政策金利のみを操作しており、長期金利を直接に操作することはない。

 ところが、日本は短期金利も長期も直接の操作対象としている。これが、2016年に導入された「イールドカーブ・コントロール」政策だ。

 すなわち、長期金利に目標値(現在は0%)と一定の変動幅(現在は±0.25%)を決め、その範囲を超えそうになると、日銀が国債市場に介入して、金利を範囲内に収めるようにしている。

【次ページ】円安の原因「日銀の強硬策」とは
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