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- 2022/07/19 掲載
「円安は長期化する」と言える2つの理由、金融市場に起きているパラダイムシフトとは
購買力平価ではまだ円高だが…
今回の円安が、日米両国の金利差によって生じていることは、ほぼ明らかと言って良い。米国はインフレ抑制を最優先する必要に迫られており、金利の上昇ペースが今後さらに加速する可能性が高まっている。バイデン大統領も、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)のパウエル議長も、インフレを抑制できるのであれば、景気を犠牲にしても構わないとのスタンスを明確にしており、イザとなれば金利の大幅な引き上げにも躊躇しないだろう。一方、日銀の黒田総裁は、現在の金融緩和策を継続する方針を明確に示している。長期国債の金利についても0.25パーセント以上には上昇させないという「指し値オペ」を実施しており、市場に対して、かたくなとも言える姿勢で臨んでいる。少なくとも、短い時間軸で日銀の金融政策が変更される可能性は低く、結果として日米の金利差が拡大しやすい状況にある。こうした状況は、ドル買い円売りの取引を誘発しやすく、今後も円安傾向が続くと考える市場関係者は多い。
為替相場というのはさまざまな要因で動くものだが、長期的には二国間の物価の違いによってレートが決まると言われる。経済学の世界では、同じ商品であれば、世界どこでも同じ値段になるべきという概念があり(一物一価)、この場合、両国の物価に違いが生じれば為替レートが変動することによって二国間の物価が調整される。この概念を元にした理論的な為替レートのことを購買力平価の為替レートと呼ぶ。
購買力平価の為替レートについて、より分かりやすく言えば、物価が上昇している国の為替は安くなり、物価が下落している国の為替は高くなる。過去のドル円相場を見てみると、過去50年間、多少の上下変動はあるものの、一貫して円高が続いてきたが、アメリカの物価は日本の物価を上回るケースがほとんどだった。少なくともドル円相場については、購買力平価の理論通りに動いてきたと考えて良い。
こうした購買力平価の原理原則から考えた場合、両国の金利差というのは、最終的に為替を決める直接的要因にはならない。ただ金利というのは、物価を反映して動くものであり、最終的に金利と物価は連動することになる。現時点において、日本の物価が米国以上に高騰しているわけではなく、金利要因での為替変動というのは、ある種の投機的な動きであると見なすことも可能だ。
市場と理論のどちらが先か?
このため一部の専門家は、今回の円安について、購買力平価の為替レートを大幅に超えており、近い将来、購買力平価の水準まで円が戻すとの見方を示している。たしかに、購買力平価によって為替レートが最終的に決まるのだとすると、現在の円安水準は、理論値から相当、乖離した状態であることは間違いない。しかしながら、購買力平価による為替レートと実際の為替レートのどちらが先に決まるのか、つまりどちらがニワトリでどちらがタマゴなのかというのは本当のところ分かっていない。仮に、今回の円安が何らかの理由で長期化すれば、輸入物価の上昇を通じて、日本の国内物価を現実に上昇させる。国内の物価が上昇すれば、最終的には日本の購買力平価による為替レートも下落するので、現実経済が理論値に追い付くことになる。
もし、市場が日本における顕著な物価上昇を予想しているのであれば、一連の円安はその動きを先取りしているのかもしれない。次の段階として、輸入物価の上昇を通じたインフレが発生し、それに伴って購買力平価の為替レートが下落するといった展開も十分にあり得ることになる。
では、市場が日本における長期的な物価上昇(さらには金利の上昇)を見込んでいるのだと仮定すると、その要因は何だろうか。
最初に考えられるのは、やはり日本における購買力の低下である。そしてもう1つの要因は、金融的要因、つまり量的緩和策によるカネ余りだろう。
日本経済は、過去30年間ほぼゼロ成長が続いており、賃金もほとんど上昇していない。同じ期間で経済規模や賃金を1.5倍から2倍に拡大させた諸外国との間には、購買力において著しい差がついている。日本はもはや、ほかの先進諸外国と同じレベルの購買力を発揮することができないため、輸入品は基本的に割高になっていく。
これは、ある種の国力低下と言い換えても差し支えなく、為替市場はこうした日本経済の体力低下を敏感に感じ取っているのかもしれない。これに米国との金利差という短期的な要因が加わることで、円安という形でそれが顕在化したと考えることも可能だ。
【次ページ】長期トレンドが転換した可能性も
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