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3月以降、急激に円安が進んだことで、為替レートの動向が企業業績の大きな変動要因となりつつある。これまでの時代は、円安は日本経済にとってプラスという感覚が一般的だったが、産業構造の変化によって、その「常識」は変わりつつある。業種ごとの為替の影響について分析した。
業界によって輸出入の依存度は大きく異なる
為替レートの影響が最も顕著に表われるのは、当然のことながら輸出入が関連する業界である。円安が進んだ場合、見かけ上の輸出額と輸入額が増大することになる。輸出入の数量に変化がなかった場合、輸出増は業績のプラス要因に、輸入増は業績のマイナス要因となる。輸出入の数量はすぐには変わらないので、短期的な影響を考える場合には、輸出と輸入にどれだけ依存しているのかが重要なポイントとなる。
図1は各業種ごとの輸出比率と輸入比率をグラフにしたものである(2020年時点)。ここで言うところの輸出比率は、当該業種における総生産高に対する輸出の比率(国民経済計算ベース)を示している。輸入比率は、国内需要に対する輸入の比率を示している。
今回の円安では、輸入物価の上昇に伴う家計への影響が大きな話題となっている。輸入品の価格が上がった場合、そのコスト上昇分は製品価格に転嫁される。価格が上がった商品が最終製品だった場合、消費者が直接負担する結果となる。一方、中間財だった場合には、その商品を購入した業界がコストを負担することになり、最終的には消費者が購入する製品の価格に跳ね返ってくる。
輸入比率が高い業界ほど輸入品の価格上昇による影響を受けやすいということになるわけだが、グラフの中で顕著に輸入比率が高いのは、鉱業、食料品、繊維製品、化学、情報通信機器の5業種である。
鉱業の大半は石油元売りなどエネルギーの輸入に関わる業界なので、鉱業の輸入依存度が高いのは当然と言えば当然の結果である。石油元売りは、ガソリンスタンドなどを通じて消費者に直接、製品を販売するルートと、製造業などの事業者に対して製品を販売するルートの2種類がある。ガソリン価格は基本的に原油価格に連動するので、ガソリン価格が毎日のように上昇していたことは、皆さん、ご承知の通りだろう。
エネルギーと同様、毎日、食べている食品の多くが輸入で成り立っていることも、よく知られている。パンや菓子類の原料となる小麦はほとんどが輸入だし、食用油の原材料も多くが輸入品である。今年の4月に食品価格が一斉に値上がりしたが、ガソリン価格と同様、昨年後半から進んだ原材料価格の上昇が原因である。円安による影響はこれから本格化するので、今後、もう一段の値上げがあってもおかしくない。
値上げのタイムラグが発生する理由
ガソリンや食料は製品価格に占める原材料の比率が高いので、事業者は価格転嫁しないと採算を維持できない。だが原材料比率がもう少し低い製品の場合、原材料以外の部分でコスト削減余地があるので、ある程度までなら、価格転嫁を先送りできる。
仕入れ価格が上がっている以上、最終的には価格転嫁が行われることになるが、それまでにはタイムラグがあるのだ。グラフの中で高い輸入比率になっているにもかかわらず、顕著に値上げが行われていない業界は、今後、値上げが進む予備軍と考えて良いだろう。
まだ値上げが行われていないにもかかわらず、輸入比率が高い業界の代表は、繊維と情報通信機器である。
アパレルはファストファッションに代表されるように、価格が重要な差別化要因となっている商品が多い。一部の高級品を除けば、安易に値上げしてしまうと販売数量が減ってしまう。食品と比較して衣類は買い換え頻度が低いので、食品価格が上がると、家計は真っ先に衣類への支出を抑制する。こうした事情からアパレルは値上げをしにくい業界と言えるが、それでも限界はやってくる。しまむらは秋物から3~4%の得上げを表明しており、多くの企業が追随すると考えられる。
消費者の負担増という点で要注目なのは情報通信機器だろう。情報通信機器と聞くとあまりピンと来ないかもしれないが、何のことはないスマートフォンやパソコンなど各種デバイス類である。これらのデバイスは多くが国産だったが、日本企業の競争力低下に伴い、ほとんどが輸入品に切り替わった。
パソコンは短期間でスペックが変わるので、同一条件での価格比較が難しい商品だが、条件を揃えた場合の製品価格は、すでに前年比で20%程度、上昇している。スマホについてもキャリア経由で購入する人がいるため、全体としての価格動向を掴みづらいものの、ネット通販などで単品販売されている海外製スマホの価格は、すでに相当な値上がり幅である。
化学業界については、石油を原料とするプラスチック類などが該当するので、あらゆる業界に対して資材価格高騰という形で波及する。
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