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ドル円相場が再び円安に向けて動き出すなど、日銀の金融政策が実体経済に大きな影響を及ぼしている。今のところ日銀は大規模緩和策を維持する方針だが、このままマネーの供給を続ければ、必然的に円安は進行しやすくなる。景気を犠牲にしてでも緩和策から脱却するのか、インフレによる貧困化を受け入れて緩和策を継続するのか、政府・日銀はそろそろ覚悟を決める必要があるだろう。
植田総裁は政策変更をほのめかしたが…
為替相場はさまざまな要因で動くものだが、昨年以来、続く円安の主な要因が日銀の金融政策にあることはほぼ明白と言って良い。アベノミクスの中核的な政策である大規模緩和策によって日銀は大量のマネーを市場に供給する一方、米国や欧州の中央銀行は、金利を引き上げてマネーを回収するモードに入っている。
日本はひたすらマネーの提供を続け、円の価値を低下させる一方、米国はマネーを回収しドルの価値を上げる政策を実施しているので、当然の結果として円安ドル高が進みやすくなる。
筆者は、円安が進み始めた2022年当初から、日本の金融政策が大きく変更されない限り、基本的な流れとして円安が続く可能性が高いと繰り返し述べてきた。かつての日本では、円安は輸出産業に有利とされ、歓迎するムードだったが、今回の円安は輸入価格の上昇をもたらし、国民生活に大きな悪影響を及ぼしている。
日本の製造業はすでに国際競争力を失っており、円安による売上拡大よりも、仕入れコスト増加に悩まされており、企業業績は改善していない。円安になれば、見かけ上の売上高と利益は増大するため、新聞には「過去最高益」などという文字が踊るものの、製造業の営業利益率はむしろマイナスとなっており、円安で儲からない体質になっている。円安で企業が儲からず、経済が実質的に成長できない状況では、物価を上回る賃金上昇を実現するのは困難である。
金融政策の変更は、過度な円安を回避する有力な方策となり得るが、その選択肢も難しいと言わざるを得ない。
日銀の植田和夫総裁は、ECB(欧州中央銀行)主催の国際会議に出席し、「2024年もインフレが続くと確信できれば政策変更に十分な理由になる」と発言し、金融政策転換の可能性について言及した。植田新体制の発足後、市場の一部からは金融政策の早期転換を期待する声が上がっており、今回の発言はそれを仄めかしたとも解釈できるが、現実的に日本で金利を引き上げるのは極めて難しい。
賃金が上がらないと金融政策を変更しないという奇妙なロジック
今の日本経済は低金利にどっぷりと浸かった状況であり、ここで金利を上げてしまうと、企業の倒産が続出するほか、住宅ローン破産者を増やしてしまうリスクがある(変動金利の場合、金利が上がると返済額が増える)。何より金利が上がると政府の利払い費が急増するため、増税が不可避になることから、政府は金利を上げたくても上げられないのが実状だ。
植田氏は、総裁に就任すると、まずは大規模緩和策の継続を表明した。永田町では解散が取り沙汰されており、通常国会での解散は回避されたものの、引き続き、いつ解散があるのかわからない状況が続く。岸田文雄首相の政権基盤が十分に確立しない中で大幅な政策変更に踏み切れば、場合によっては政局に発展する可能性があり、慎重にならざるを得ないという事情もある。
今回、植田氏が少し踏み込んだ発言を行ったことで、場合によっては政策変更が行われる可能性が出てきたと解釈できるが、一方で植田氏は、(2024年以降もインフレが続くことについて)「あまり自信が持てない」と述べている。さらに植田氏は、2%という物価目標を達成するには「2%を上回る賃金上昇が必要」という発言も行っている。
本来、物価目標は単純な物価目標だったはずだが、大規模緩和策が効果を発揮しないことが明らかになるにつれて、黒田東彦前総裁は物価ではなく賃金に言及することが多くなった。いつのまにか物価目標は事実上、賃金目標を意味するようになり、賃金が上がらない限り、緩和を続けるというロジックになっている。今回の植田氏の発言もその延長線上に位置していると考えて良いだろう。
これは、賃金が上がらない限り、現在の大規模緩和策を継続するという文脈にも読める。
冒頭に述べたように、日本企業は国際的な競争力を低下させており、円安によってむしろ儲かりにくい体質になっている。日銀の金融政策が円安を引き起こす原因である以上、企業の経営モデルを抜本的に変革しない限り、円安下においてインフレ率を超える賃金上昇を実現することは難しい。そうなると日銀の金融政策はいつまでたっても変更されないという事態が十分にあり得ることになる。
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