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日本や米国は新型コロナ対策で巨額の財政支出を行い、財源となる新規国債を発行するために金融緩和を行った。このため、米国ではインフレが発生し、ウクライナ情勢がそれを加速させた。一方の日本は、海外各国が金利を上げる中でもいまだに金利を抑制して金融緩和を続けている。そのため多額の国債を発行し、大量の借金を積み重ねている。これからの日本経済はどのような道をたどるのか。
いよいよ国債残高は1,000兆円の大台に
総合経済対策の裏付けとなる
2022年度第2次補正予算案が、11月8日の持ち回り閣議で決定された。一般会計の追加歳出は28.9兆円。この約8割にあたる22.9兆円は国債の増発で賄う。つまり、財政支出の大部分は国債発行で賄われるわけだ。
新型コロナの感染拡大に対処するため、さまざまな財政措置がなされた。その結果、補正予算で巨額の国債発行を行うというパターンが定着してしまったように見える。
財務省によると、
2020年度の国債発行計画では、当初予算における新規国債発行額が32.6兆円だったが、第2次補正後で90.2兆円となり、第3次補正後で112.6兆円となった。100兆円超えは、初めてのことだ。
2021年度の国債発行計画では、当初予算で43.6兆円。それが補正予算で22兆円増加され、65.6兆円となった。こうした財政運営がなされた結果、国債残高は増加している。
財務省の資料によると、普通国債の残高は2015年度末には805兆円だったが、2020年度末には947兆円となった。2022年度末には、今回の追加で
1,042兆円になる見込みだ。なお、普通国債は建設国債や赤字国債などで、財投債を含まない。
こうした急激な国債残高の増加が深刻な問題を起こすことにはならないかと、誰でも心配になるだろう。
自国通貨建ての国債は問題なし? その3つの根拠とは
MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)という考えがある。MMTとは、「政府が国債発行によって財源を調達しても、自国通貨建てである限り、そしてインフレにならない限り、問題ではない」という主張だ。ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授などによって提唱された。
MMTは、次のような理論を根拠としている。
- 貨幣は素材の価値があるから通用するのではなく、価値があると国が宣言するから通用する。
- 内国債は国から見れば債務だが、民間の国債保有者から見れば資産だ。両者は帳消しになる。したがって、「将来時点で、外国に支払うために国が使える資源が減る」という意味での「国債の負担」は発生しない。この点で、内国債と外国債は経済効果が異なる。
- 経済が不完全雇用状態にあって遊休資源があるなら、財政赤字によって財政支出を増やすべきだ。
MMTは異端の学説だと見なされる場合が多い。しかし、上記の考えは正統的なものだ。
上記の1は、ドイツの経済学者ゲオルク・クナップによって20世紀初頭に唱えられた貨幣理論(「チャータリズム」と呼ばれる)だ。2は、20世紀中頃の米国経済学者アバ・ラーナーの主張だ。そして3は、ケインズ経済学の主張だ。
MMTのトリックは、「インフレを起こさなければ」という制約条件をかけていることだ。
上記の3点は多くの人が認めている正統的な理論である。にもかかわらず、新規国債発行でいくらでも調達しても良いということにならないのは、多額の国債発行はインフレを招く危険があるからだ。
国債の市中消化を続ける限り、国債発行額が増加すれば金利が上昇する。そして、国債発行には自然にブレーキがかかってしまう。これを避けるためには、中央銀行が国債を買い上げる必要がある。すると、貨幣供給量が増加し、物価が上昇して、ついにはインフレになる。
MMTの理論は、「いくら国債を発行してもインフレにならない」と主張しているのではない。そうではなく、「インフレにならない限り、いくら国債を発行しても良い」と言っているのだ。つまり、多額の国債発行がインフレを招くという重要な問題をはぐらかしているのである。MMTが人々の支持を得られなかったのは、このためだ。
【次ページ】金利抑制・国債発行を続ける日本経済に期待できるか?
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