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日本は、対ドル相場で32年ぶりとなる一時1ドル=150円を記録した。こうした中でも、日本は金融緩和策を続けている。一方、英国・トラス政権は、過去50年間で最大規模の減税策を打ち出した。しかし、金利高騰など市場の反撃に遭い、わずか1カ月足らずで政策を撤回。その末、10月20日にトラス首相は辞任を表明した。日本は基本的に英国と同じ性格の政策を続けているが、実は日本の方が危機的状況にあると言える。日本は英国から何を学ぶべきなのか、両国の政策を比較して解説する。
ドタバタ劇の英国よりも深刻な日本経済
英国のトラス政権の経済政策が混迷している。後ほど詳しく解説するが、「トラスノミクス」という、破綻的な経済政策を打ち上げて市場に大混乱をもたらした。そして、クワーテング財務相を更迭し、目玉政策を撤回せざるを得なくなった。
このドタバタ劇を見て、日本はまだマシだと思っている人が多いだろう。たしかに日本では、表面的には混乱が生じていない。しかし、実は日本の方が、問題は深刻だと考えることもできる。その理由は、次の通りだ。
英国では金利が上昇したために、無謀な経済政策が押さえ込まれた。それに対して日本では、日本銀行が金利を抑制しているために、「市場によるチェック」が働かない。そのため、将来の大きな危機の芽が、チェックされずに成長し続けているのだ。
だから、英国のドタバタ劇は対岸の火事ではない。日本では、実質的には英国と同じような問題があるのに、それが表面化しない。そして、政策の変更がなされずに、問題はますます深刻化していく。この方がはるかに問題だ。我々は、英国で起こっていることを他山の石とする必要がある。
英国の経済政策を時系列で解説
・9月23日:バラマキ政策「トラスノミクス」の打ち上げ
まず、トラス政権が何を行ったのかを見よう。9月23日に公表された経済政策では、電気・ガス料金を凍結することが打ち出された。ただし、そのために必要な財政支出額は、半年間で600億ポンド(約9兆6,000億円)という巨額のものだった。
そのための財源が手当てされると思いきや、実際には大減税策が打ち出された。まず、前政権が予定していた「法人税率を2023年4月に19%から25%へ引き上げる」という政策を取りやめとした。さらに、所得税の基本税率を2023年4月から1%下げるという、5年間で450億ポンド(約7兆2,000億円)規模の大減税を打ち出した。
これらは、企業や富裕層を対象にした減税策である。しかも、物価を抑制すると言いながら、減税で経済を刺激しようとする支離滅裂なものだった。
こうした大規模なバラマキ策が、財源の裏付けなしに打ち上げられた。財政支出を拡大して、国債で賄えば良いという考えだ。国債発行額は、当初計画から724億ポンド(約11兆5,840億円)増額された。
・9月下旬:金利の急騰と37年ぶりのポンド安
後で述べるように、日本でも物価対策などで、巨額の財政支出が行われようとしている。英国が日本と違うのは、財源の裏付けがない巨額のバラマキ策に反応して、市場金利がただちに急騰したことだ。
トラス政権の発足前には2.8%であった10年国債の利回りが、9月下旬から急上昇し、9月27日には4.5%になった。ポンドの対ドル相場はそれまでも下落基調にあったのだが、9月13日に高値で1ポンド=1.17ドルだった相場が、9月26日には1ポンド=1.03ドルという
37年ぶりの安値を記録した。
【次ページ】英国に学ぶ「日本の金融緩和」が危険なワケ
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