0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
日銀は、消費者物価上昇率2%を目的として2013年から異次元金融緩和政策を開始した。しかし現在、消費者物価上昇率は2%を超える見通しで、その目的は達成されているにもかかわらず、日銀は金融緩和を修正しようとしない。これは、異次元金融緩和の本当の目的が物価の上昇ではないからだ。では本当の目的とは何なのか、解説する。
異次元緩和を止めない「2つの理由」
日本銀行は、2013年4月に大規模な金融緩和政策(通称:異次元金融緩和政策)を開始した。その目的は、消費者物価の対前年上昇率を2%にすることとされた。
ところで、現在、消費者物価上昇率は2%を超えている。それを受けて日銀は7月21日の金融政策決定会合で、2022年度の物価上昇率の見通しを1.9%から2.3%に引き上げた。
このように、当初設定した目的は達成されたのであるから、これ以上金融緩和政策を続ける必要があるかどうかについて、検討が必要なはずだ。2022年度中で2%を超えるというのだから、「緩和政策を修正」というのが自然な結論だろう。
ところが日銀は、金融緩和政策を変更しないとしている。その理由として、次のような点を挙げている
- 物価上昇は一時的なものに過ぎず、賃金が上がらないので持続性がない
- 現時点で金利を上げると、経済活動にマイナスの影響がある
インフレに対抗するため、世界の中央銀行が競って金利を引き上げている。7月21日には、欧州中央銀行(ECB)も11年ぶりに利上げを決定した。こうした中で金融緩和の修正を一切認めようとしない日銀の姿勢は、異常に見える。
インフレ目標で知っておくべき「フィリップスカーブ」とは
そもそも、なぜ消費者物価上昇率の引き上げが必要なのかについて、日銀から詳しい説明は無かった。
インフレ目標は世界の多くの中央銀行が採用してきたものだが、その基礎になっていたのは、「フィリップスカーブ」である。これは、失業率を横軸に、物価上昇率(名目賃金上昇率)を縦軸にしてグラフを作ると、物価が上がる/下がるほど失業率が下がる/上がる曲線を描くことができることを表している。つまり、物価上昇率と失業率との間には一定の関係があるというものだ。
物価上昇率が高ければ失業率が低く、経済活動が活性化している。逆に物価上昇率が低ければ、失業率が高く、経済は低迷している。ただし、この関係は、単なる相関関係にすぎない。
つまり、「物価上昇率を高めれば経済が活性化する」ということでは必ずしもない。一方で「経済が活性化すれば、失業率は低くなり、それに伴って物価上昇率も高くなる」という解釈も可能だ。
後で見るように、日米経済の比較から導かれるのは、後者の関係だ。
【次ページ】物価上昇ではない、異次元緩和の「真の目的」は?
関連タグ