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日本円が再び下落している。円が売られる最大の理由は日米の金融政策の違いであり、日銀が政策転換を表明していない以上、日銀は円安を容認していると市場関係者は受け止めているはずだ。日銀は意図的に円安を進めようとしているのだろうか。
黒田氏は量的緩和策の理論に忠実
日本円は2022年3月以降、急ピッチで下落しており、4月には130円を突破した。その後、126円台まで戻す場面もあったが、6月に入ると再び下落傾向が顕著となっている。
米国は予想以上にインフレが進行しており、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)は利上げペースを加速しつつある。一方、日銀は依然として量的緩和策を継続する方針であり、ゼロ金利の継続がほぼ確実視されている。ECB(欧州中央銀行)も7月1日、量的緩和策を終了し、利上げに踏み切る方針を示しているので、主要国で低金利政策を続けるのは日本だけとなる。
各国が量的緩和策からの脱却を進める中、日本だけがゼロ金利を継続すれば、当然の結果として円は売られやすくなる。この状況を客観点に見れば、日銀は円安の進行を容認していると判断せざるを得ない。実際、多くの市場関係者がそう認識しているだろう。
こうしたところに飛び出してきたのが黒田総裁による「値上げ許容発言」である。
黒田氏は2022年6月6日、都内で行った講演で「家計が値上げを許容している」と発言し、大きな批判を浴びた。その後、黒田氏は発言について謝罪し、「まったく適切な表現ではなかった」として撤回している。
日銀総裁が自身の発言について謝罪したり、撤回するというのは異例の事態である。同氏は4月時点においても、急ピッチで進む円安について問われ「全体としてプラスという評価を変えたわけではない」と発言している。その後、家計が値上げを許容しているという失言につながったことを考えると、「円安」→「物価上昇」という流れを肯定していると考えて良い。
黒田氏はアベノミクスの柱となる量的緩和策を強力に推進してきた人物である。日銀が積極的に国債を購入し、市場にマネーを供給することで期待インフレ率を高めるという量的緩和策の理論に従えば、円安が進むことは想定された事態である。発言の是非はともかく、内容には一貫性があり、黒田氏は量的緩和策の理論に忠実ということになる。
だが、多くの人が実感しているように、量的緩和策によってインフレ期待は生じたものの、設備投資の増加や賃金の上昇にはつながっていない。端的に言ってしまえば、量的緩和策はうまく機能していない状況であり、当然のことながら黒田氏ほか日銀幹部もこの状況は理解しているはずだ。それにもかかわらず、日銀は同じ政策にこだわり続けており、多くの国民は、なぜ日銀は方向転換を検討しないのか疑問に思っている。
「日銀文学」を使うという方法もあるが…
では、なぜ黒田総裁あるいは日銀は、量的緩和策の継続にこだわっているのだろうか。一部の論者は、黒田氏が立場的に引くに引けなくなっていると指摘している。
このタイミングで金融政策を変更すれば、量的緩和策を全面に打ち出したアベノミクスを全否定することにもつながりかねない。量的緩和策が効果を発揮していないことは理解しつつも、政治的影響を考えて動くことができないとの解釈である。
たしかに黒田氏が政策転換を仄めかせば、ある種の政局となる可能性はある。だが日銀は政府からは独立した存在であり、最終的に金融政策を決める権限は日銀にある。また「日銀文学」という言葉があることからも分かるように、表面的には発言を変えていないように見せつつも、市場関係者にはそれとなくメッセージを伝えるといった手段も使うことができる。もし黒田氏あるいは日銀が、何らかの形で方向転換を模索しているのであれば、それは市場に伝わると考えた方が良い。
現時点で市場関係者から、日銀が方針転換するという話は聞こえてこないので、黒田氏もしくは日銀は、現行の政策を推進したいとの強い意思を持っていると考えられる。政権が状況に危機感を抱き、政治的な動きを見せれば話は別だが、少なくとも黒田氏の任期中は量的緩和策を継続したいというのが、現時点における日銀のホンネだろう。
では、日銀は円安の進展による物価上昇といった弊害があるにもかかわらず、なぜ量的緩和策の継続に邁進しているのだろうか。一部の論者はこうした日銀の行動様式について「日銀原理主義」が影響していると分析している。
日銀原理主義という言葉に明確な定義があるわけではないが、日銀は創立以来、金融政策こそが経済を決めるという強い信念を持っており、時として金融政策の実施に過度にこだわる傾向がある。こうしたある種、頑な姿勢のことを「日銀原理主義」と呼ぶ。
これを今の時代にあてはめれば、2%の物価目標を掲げ、国債を大量購入することで、持続的な成長を実現するという金融理論(量的緩和策)を絶対視し、よほどのことがない限り、その方針は変更しないという意味になる。
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