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前回のコラムでは、日本企業の賃金が上がらない最大の原因は、日本企業の経営にあるとの解説を行った。日本社会には、経営者に対して高業績と従業員への還元を強く促す仕組みが存在しておらず、経営者は現状維持に走りがちである。これは構造的な問題であり、事態を抜本的に改善しない限り、日本人の賃金は上がりようがない。
日本企業は過剰なまでに先行投資に消極的
日本企業の経営者(特に上場企業の経営者)が現状維持に終始していることは、企業の業績を見れば明らかである。
前回、説明したように日本企業全体の売上高は過去30年間ほとんど伸びていない。売上高というのはビジネスの根幹であり、売上高が伸びていないというのは、企業にとって致命的な事態と言って良い。ところが日本企業の利益は、売上高が伸びていないにもかかわらず拡大が続いている。その理由は減税によってゲタを履かせているからである。
リーマンショック以降、資本金10億円以上の大企業における当期利益率は2.0%から6.5%と順調に拡大したが、営業利益率はそれほどの伸びを示していない。本業での儲けを示す営業利益が伸びていないにもかかわらず、税引き後の当期利益ばかりが伸びているのは、安倍政権が財界からの強い要請を受け、3回も法人減税を実施したからである。
基本的な稼ぎが変わらなくても、税金が安くなれば手元に残るキャッシュは増える。本来なら、減税によって得られたキャッシュは先行投資に充当すべきであり、政府もそれを期待して減税を行ったはずだ。ところが日本企業は内部留保としてキャッシュを貯め込むばかりで、先行投資を行っていない。
企業が先行投資に消極的であることは、IT投資の状況を見ればよりはっきりしてくる。
日本企業全体のIT投資金額は、1990年代以降ほとんど伸びておらず、同じ期間で3倍から4倍に拡大させた諸外国との差は歴然としている。ITへの投資を行えば、相応の効果が得られることは実証済みであり、日本企業がごくわずかでもIT投資を増やす動きを見せていれば、確実に企業の生産性は向上し、賃金にも反映されていたはずだ。現代社会においてITへの投資が成長のエンジンであることを否定する人は誰もいないという現実を考えた場合、IT化にここまで消極的な日本企業の行動は、国際的に見てかなり異質と映る。
年功序列の制度ではジョブ型になりようがない
日本企業の異質な行動が、独特の雇用制度と関係しているのはほぼ間違いないだろう。よく知られているように、日本は大企業を中心に、年功序列と終身雇用のという独特の雇用体系を維持している。中小企業の場合、経営状態が苦しいところも多く、終身雇用は事実上、保証されていないが、年功序列の仕組みは企業規模とは無関係に成立していると見て良いだろう。
年功序列の最大の問題点は、仕事に対して賃金を支払うという、海外では当たり前の雇用環境が成立しにくくなることである。年功序列の制度下では、一定の勤続年数が経過すると、ほとんどの社員が自動的に昇進し、管理職にならざるを得ない。結果として、現場の業務は若い社員が担当し、中高年の社員は能力の有無にかかわらず管理職としての業務を行うことになる。管理職の人数は、一般社員より大幅に少なくなるはずだが、全員を昇進させていけば、当然、管理職は余剰となる。
企業の業績が右肩上がりで拡大していた昭和の時代であれば、管理職のポストも増えていたので問題は顕在化しなかったが、今の時代にこうした雇用制度を維持すると、いわゆる「働かない中高年」をたくさん生み出す結果となる。日本企業が過剰雇用を抱えているのはこれが理由である。
だが、問題はそれだけではない。能力の有無にかかわらず、年次だけで業務内容を変えてしまうと、専門性を確立しにくくなる。結果として業務に対して賃金を支払うという、いわゆるジョブ型の雇用も成り立たず、転職など人材の最適配置もうまく進まない。このため成長産業に人が流れず、これがさらに経済の停滞を招いてしまう。そして、一連の雇用制度がもたらす最大の問題は、何と言っても経営体制の硬直化だろう。
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