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政府が大規模な為替介入を実施したことで、日本の外貨準備に対する関心が高まっている。そもそも外貨準備とはどのような存在で、どう活用するのが適切なのだろうか。
今回の介入効果は限定的
政府・日銀は、急激な為替変動に対応するため大規模な為替介入を実施している。2022年8月30日から9月28日にかけての介入規模は約2兆8,000億円、9月29日から10月27日にかけての介入規模は約6兆3,500億円だった。約2カ月の累計で約9兆円の介入を行ったことになる。
今回の為替介入は円安を阻止するために行われており、手元のドルを売って円を買う取引が必要となる。ドルを売った分だけ、政府が保有する外貨準備は減る。
今回の大規模な為替介入についてはさまざまな意見が出ている。円安を防止する為替介入は手元の外貨準備の範囲でしか実施できないことや、そもそも円安になっている原因は日本の金融政策にあることから、その効果には限界があり、本来、介入は行うべきではないとの指摘が存在していた。実際、介入を行っても、その場では一時的に円高に振れるものの、根本的に為替の方向を逆転する効果までは得られていない。
十分な効果が得られない為替介入に対し、2カ月で約9兆円もの外貨を使ってしまったのは、大切な資産をドブに捨てるようなものだとの批判もある。一方で、日本政府が保有する外貨準備には含み益が出ているので、利益を確定しただけあり、損失にはなっていないとの指摘や、さらには外貨準備で得られた利益はむしろ一般的な予算に回すべきとの意見も聞かれる。
一連の見解で何が正しいのかは、そもそも外貨準備をどう捉えるのかによって変わってくる。近年、外貨準備について議論されるケースがほとんどなかったことから、外貨準備そのものについてよく知らないという人も多い。介入の是非について議論する前に、まずは外貨準備とは何かについて説明する必要があるだろう。
外貨準備には2つの目的がある
外貨準備というのは政府もしくは日銀が保有している外貨のことを指す。もともと外貨準備は貿易の決済を円滑に行うために存在していた。戦後間もなくの時代、日本経済は貧しく、日用品やエネルギーの輸入にも事欠いた。日本経済に対する信用が著しく低かったことから、民間企業は簡単に外貨を調達することは不可能だった。
輸入の決済は日本円ではできず、ほぼすべてがドル建てなので、外貨がなければ日本は何一つ、輸入することができない。このため政府が貴重な外貨を一元管理し、輸入が滞りなく実施できるよう支援していた。
その後、日本経済が成長して豊かになったことから、民間企業は市場で自由にドルを調達できるようになった。このため政府による外貨の一元管理は終了し、現在では、為替介入を実施するための資金として、あるいは日本経済が非常事態に陥った際、輸入決済を維持するための資金として存在している。つまり外貨準備は介入の原資であると同時に、日本の輸入を維持する最後の砦ということになる。
このように外貨準備の保有には、為替介入の原資という意味合いがあるため、一定の範囲で介入に使うこと自体は問題ないと考えられる。だが外貨準備がイザという時の保険である以上、効果が希薄な介入に多額の外貨準備を使うことについて異論が出るのはやむを得ないだろう。
もっとも政府・日銀は約190兆円外貨準備を保有しており、今回の介入で使ったのはごく一部である。
だが外貨準備の大半は預金ではなく米国債と考えられ、介入資金を捻出するためには米国債を売って現金化する必要がある。日本政府が米国債を大量売却すれば、国債市場に大きな影響を与え、米国の金利をさらに上昇させてしまう可能性がある。今回の円安は、日米の金利差によって生じているので、為替介入を実施しようと米国債を売却すると、逆に円安を加速させてしまうリスクがあるのだ。一連の状況を考えるとこれ以上の規模で外貨準備を取り崩すことはあまり適切とは言えないだろう。
【次ページ】長期的に見ても、外貨準備は取り崩さない方が良い?
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