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- 2024/08/13 掲載
政府は覚悟できてる?日銀「追加利上げ」決定後…日本経済を襲うかもしれない“逆風”
これまで政府は日銀に利上げしないよう求めてきた
日銀は2024年7月31日に開いた金融政策決定会合において、政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決定した。もともと今回の金融政策決定会合では、国債の買い入れ減額が主な焦点であり、追加利上げについては行われないとの見方が多かった。3月にマイナス金利を解除したのち、秋に開催される金融政策決定会合においてゼロ金利解除に踏み切るというのが基本的な方針だったと言える。一刻も早く金融正常化を行いたいというのが日銀の本音だったが、こうした日銀に対してストップをかけ続けてきたのはむしろ政府のほうだった。今年に入って金融正常化について言及することが多くなった日銀に対し、自民党内の旧安倍派を中心とするアベノミクス推進グループは「アベノミクスを止めるのか」などと日銀をけん制する発言を行い、低金利を継続するよう強く求めてきた。
これまでの図式は、早期に金利を引き上げたい日銀と、アベノミクスを継続し、ゼロ金利を維持したい政府との綱引きだったわけだが、ここ2~3カ月の間に状況が大きく変わった。大規模緩和策の影響で円安が激しくなり、国民生活が窮乏。9月の総裁選を前に、政府は何としても円安を止めなければならないという切実な状況になったからである。
7月17日に河野太郎デジタル大臣が米紙とのインタビューで強く利上げを求め、続く22日には茂木敏充幹事長が「正常化の方針をもっと強く打ち出す必要がある」と日銀に再度、念押しするなど、政権から利上げを求める発言が相次いだ。
これまで、日銀に対して利上げをけん制してきた政府が、打って変わって日銀に利上げを求めるという奇妙な状況となっている。
政治的に見れば、ウラ金問題で自民党内における旧安倍派の影響力が著しく低下しており、アベノミクス継続を強く主張する力が弱くなったという要因が大きい。だが現実問題として、低金利に慣れ切った今の状態で本格的な利上げを実施した場合、リスクが大きいのもまた事実である。それにもかかわらず、政府が日銀にここまで利上げを迫っているのは、9月の総裁選を前に、円安による物価高を回避したいという目先の理由が大きいと考えられる。
政府内部に方針転換の自覚はあるのか?
大規模緩和策の実施によって、日銀当座預金には600兆円ものマネーが積み上がっている。この状態をセオリー通りに解消するには、ゆっくりと金利を上げ、その間に生じる円安の弊害を甘受しつつ、時間をかけて正常化を進めていく以外に道はない。これまでの政府・日銀はセオリー通り、金利はできるだけ上げず、円安を優先することで政府債務の実質的価値を減らす算段であった(明確な意思があったのかどうかは分からないが、結果的にそうした選択を行ってきた)。だが円安による輸入物価の上昇が国民生活を直撃しており、政府としては、これ以上、円安を放置できなくなった。その結果、日銀に対して利上げを強く求めることになり、なし崩し的に継続的な利上げモードに入ってしまった。
教科書的に考えれば、日銀のバランスシートが異様な水準まで肥大化しているのは、それ自体がリスク要因であり、多少の弊害があっても正常化を優先するのは、ある意味で正しい決断と言えるだろう。その点では、日本も米国に遅れること数年、ようやく金融正常化に向けて動き出したと解釈することが可能だ。
だが最大の問題は、金融正常化に舵を切ったという重大な認識が、おそらく政府内部で共有されていないことである。
先にも述べたように、政府は長く日銀に対して金利を上げないよう強く求めてきた。今回、その方針を180度転換し、日銀に利上げを迫ったのは、円安で世論が悪化しているという目先の状況を過度に気にしたからに他ならない。
今回の決定で過度な円安は回避できた可能性が高く、ここから短期間で170円を目指すようなシナリオは描かなくても済みそうである。だが、いったん金利の引き上げを行ってしまえば、その道筋を途中で変えることは極めて難しい。 【次ページ】日本が選ぶ道はほぼ1つしかなくなった
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