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急激な円安に対処するため、政府・日銀は2回にわたって為替介入を実施したとみられる。介入によって円安の流れそのものを変えることは難しいが、しばらく市場は様子見となる可能性が高く、時間稼ぎの効果は得られたかもしれない。
円安を防ぐ介入はそもそも効果が薄い
年初来、ドル円相場は1ドル=150円近辺での展開が続いていたが、4月に入ってドルが再び急騰し、1ドル=155円を超える展開となった。その後、さらにドル高の勢いが増したことで、一時は1ドル=160円を突破。政府・日銀は二度にわたって為替介入を実施し、その後は1ドル=155円台で推移している(5月9日時点)。
円安が進んでいる主な要因は、日米の金融政策の違いと、それに伴う金利差であり、この部分が解消されない限り、大きな流れとしては円安が進みやすい。政府・日銀がドル売り・円買いの介入を実施したとしても、一時的に円高に戻す効果しか得られない可能性が高く、一時的な対処のために貴重な外貨準備を使うことについては批判的な意見もある。
一方で、円安が急ピッチで進んだ場合、物価上昇などを通じて国民生活に与える影響が大きく、仮に円安が進むにしても、可能な限りそのペースは緩やかにしたいと政府・日銀は考えている。介入の有無については明言していないものの、実施したのであれば、それは急激な為替変動を防ぐ目的ということになるだろう。
もっとも今、発生しているのは円安、つまり通貨安なので、介入の効果はおのずと限定されてくる。
円高を防ぐ介入の場合、円を売ってドルを買う取引になり、政府はいくらでも日本円を調達できるので、事実上、無制限の介入が可能だ。一方、円安を防ぐ介入は手持ちのドルの範囲でしか実施できないので、上限が決まってくる。加えて、国際社会では自国の利益のみを追求した為替介入は原則として認められないというのがコンセンサスとなっており、国際協調が得られない限り、大規模に実施するのは難しいという側面もある。
4月17日に米ワシントンで開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、為替相場についての文言が共同声明に盛り込まれるなど、米国が一定の理解を示したことがうかがえる。一方でイエレン財務長官は為替介入に関して日本に対してクギを刺す発言も行っているので、やはり米国は日本による大規模介入は望んでいないようだ。
そうなると政府・日銀は、限られた原資の中で、最大限効果を発揮させ、投機的な動きを抑制する必要がある。介入そのものの是非は一度、横に置いておき、短期的な激しい値動きを抑制することが目的と仮定した場合、今回の介入はそれなりに効果を発揮したと考えて良いだろう。
短期的な抑制効果はあった
今回の介入は4月29日と5月2日の2回に分けて実施された。1回目の介入は約5.5兆円、2回目の介入は3.5兆円規模と推定されている。4月25日までドル円相場は154円台で推移していたが、26日になってドルが急騰したのは、同日に実施された金融政策決定会合において現状維持が選択されたからである。
もともと26日の金融政策決定会合で何も変化がないことは既定路線となっており、それ自体に驚きはない。だが前週にワシントンで開催されたG7の会合に出席した日銀の植田総裁は、円安が進んだ場合には追加利上げがあり得るというコメントを2度も行ったことで、市場関係者の多くは26日の決定会合で追加利上げが行われると予想した。
当日には、利上げにつながる措置(国債の買入額縮小)を検討という報道もあり、市場は利上げを前提に動き始めた。ところがフタを開けてみると、現状維持となり、植田総裁の発言も前週と比較して大幅にトーンダウンしてしまった。日銀に迷いがあると判断した投資家は一気に円売りを加速、会合直後から急激に円安が進み、一時は160円を突破する状況となってしまった。
1回目の介入は160円を突破したタイミングで実施されている。一時は154円台まで戻したものの、その後、再び円安が進んだことから158円前後で2度目の介入が行われ、その後、為替相場は少し落ち着きを取り戻している(図表1)。
1回目の介入は160円を狙って、最初から計画していたというよりは、植田総裁の発言で想定外に円安が進んだことから急遽、介入を決断したと筆者は見ている。市場というのは常に先を見て動くものであり、160円を突破すると、今度は170円、180円が視野に入ってしまう。急激な円安を放置すれば、政府・日銀が制御能力を失っているとみなされる可能性があり、とりあえず160円を超える円安は阻止したいと考えた可能性が高い。
1回目の介入がやむを得ず実施されたものだとすると、2回目の介入はそれなりに戦略性のある介入だった。その理由は、投資家の動きを考えた上で、適切なタイミングで実施されたからである。
【次ページ】2回目の介入はなかなか戦略的と言える理由
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