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超高齢社会の到来により、労働力人口の減少という社会的課題を抱える日本。その解決には「インバウンドによる交流人口が糸口となる」と語るのは、八芳園取締役専務 総支配人 井上義則氏だ。かつて「四大結婚式場」と呼ばれていたものの、婚礼ビジネスの低迷によりどん底を経験。そこから4年で業績のV字回復を遂げた八芳園。同社はいかにして「婚礼ビジネス」から「観光ビジネス」へとビジネスモデルを転換したのか。話を聞いた。
売り上げの8割を占めた婚礼事業を「全面刷新」する
八芳園は、かつて婚礼事業がビジネスの主力だった。その婚礼事業は、井上氏が16年前に八芳園に入社したとき「業績はどん底だった」という。
「八芳園は、椿山荘、目黒雅叙園、明治記念館と並んで四大結婚式場の1つに数えられ、ピーク時は婚礼が年間約3000組ありましたが、これが1000組ぐらいまで落ち込みました」(井上氏)
井上氏の活躍もあり、4年で業績をV字回復させた八芳園。この成功経験をもとに、「ビジネスモデル強化と転換」に舵を切っていく。
婚礼ビジネスを「バンケットビジネス(宴会場貸しビジネス)の一部」と捉え直し、「企業向け」へもターゲットを広げたのだ。狙い通り、現在のバンケット(宴会)事業に占める婚礼の割合は「約8割から約6割に減った」という。残りの約4割は平日のビジネスイベントが占めている。
「これまで、土日に集中してバンケットが稼働していたところから、主に平日にビジネス向けの宴会が稼働し、土日に個人向けのブライダルが稼働するというようにシフトしてきました」(井上氏)
こうして、バンケットビジネスでは、月曜日から金曜日までの平日に限定し、顧客のニーズに合わせた「オールカスタマイズ」で提供する業態にも取り組んでいる。この 傾向はこの3年でさらに加速しているという。
ブライダルはもっと「オープン」にできる
井上氏はさらなる仕掛けとして、「わかりにくい」「価格が不透明」と言われる婚礼事業に変革を起こそうとさまざまな可能性を模索していると語る。
たとえば、結婚式の「ダイナミックプライシング化」だ。
「今、スポーツスタジアムなどでは試合開催日などの需給に応じて座席の価格を動的に変える取り組みをしています。我々のバンケットビジネスもダイナミックプライシングに適応しやすい分野だと考えています」(井上氏)
宴会場のスペースについては、空き状況がネットで公開できる。「あとはフード&ビバレッジの単価、そして、婚礼の場合は衣装や付帯のオプションといった要素があるが、これも単価は公開が可能」だと井上氏は話す。
料金や空き状況が可視化されることで「ホテルの宿泊予約のようにオープンな仕組みができれば、お客さまへの利便性提供という意味からもブライダル業界の中で大きなゲームチェンジが起きる可能性がある」というのだ。
ブライダル部門が「生涯顧客」を捕まえるきっかけに
だが、情報を可視化すると、「一生に一度」ということで金額が不透明でも目をつぶる顧客が多かった「ブライダルビジネスのモデル」が消えてしまうのではないだろうか。
実はこうした「可視化」の背景には結婚式を行いたい、と考える「潜在層を掘り起こし」と、「生涯顧客戦略」がある。
まず、潜在層の掘り起こしについて。日本は人口減少傾向にあり、婚姻組数は減少することが想定されるが、婚姻形態は多様化しており、ウェディング市場にはまだ一定の潜在的な市場が存在していると井上氏は述べる。
潜在層に対し、新たな挙式披露宴スタイルの提案をしていくことが重要だ。しかし、既存の結婚情報メディアは、結婚しようと意思決定した人をターゲットにしており、「潜在需要の掘り起こしには至っていない」と井上氏は指摘する。
八芳園ではSalesforce.comの協力のもと、結婚式以外も含めた顧客DBを整備している。CRMに登録された顧客情報からお客さまのライフイベントを捉え、最適なタイミングで、最適なコンテンツを届けていく体制を整えている。ここで、新たに結婚式のニーズを喚起していく意向だ。
「結婚式の楽しさを伝えるオウンドメディア作りなども含め、結婚式をすることに迷っている潜在層に“気づき”を与えるような流れを作りたい」(井上氏)
顧客データベースを整備とともに、「生涯顧客」という戦略を打ち立てた。結婚後、子どもが生まれ、さまざまなライフイベントが発生する。また、食の安全にも積極的に取り組むことで、ライフイベントごとに、生涯にわたって八芳園を選んでもらえるようなブランディングを行ったのだ。
生涯顧客ともなれば、「一時的に不透明な婚礼費」よりも、誠実な対応をした方が長期の付き合いができるのは自明だ。
【次ページ】観光資源の「点から線」「線から面」へのアプローチ
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