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  • 2018/06/11 掲載

クーガー 石井敦氏:人工知能があらゆるところにある未来は、ブロックチェーンが作る

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「ブロックチェーン」といえば、Fintech分野で仮想通貨の信頼性を担保する新技術として注目されている。特に日本では仮想通貨一辺倒といってよいほど、活用分野が集中しているようだ。「しかし、ブロックチェーンの活用は仮想通貨にとどまるものではない」と語るのは、「ブロックチェーン×IoT×AI×ロボティクス」での応用を進める異色のベンチャー、クーガーの代表を務める石井敦氏だ。"AI everywhere"を実現する唯一の手段、それこそがブロックチェーンだと石井氏は語る。
(執筆:井上猛雄、聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎)
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クーガー 代表取締役CEO
石井 敦氏
(写真提供:クーガー)

グーグルやヤフー、スペースXの誘いを蹴ってまで、やりたかったこと

 クーガーを起業するまでの石井氏の経歴は大変ユニークだ。ある貿易企業で発電所の制御システムの設計・最適化を手掛けたことから社会人のキャリアは始まり、次に日本IBMに入社。2年半ほどISP系の開発に従事した後、ライコスジャパンで大規模検索エンジンの開発に着手する。ライコスジャパンが楽天に買収されてからは楽天本体の検索技術やInfoseekの開発も担当した。

 当時、石井氏にはその技術力を評価したグーグルやヤフーからも声がかかったが、“すでに完成された検索エンジン”が「面白くなさそうだった」同氏は、モバイル端末向けの動画変換システムを開発するセーバーというベンチャーを選択。さらにセーバーのエグジット後は、イーロン・マスクが設立し、「人類を火星に送る」ことをビジョンとする宇宙ベンチャー・スペースXに誘われる。

 以前から注目していたスペースXの上層部からの誘いに石井氏の心は大きく揺れ動き、入社直前までいったという。しかし、そのころ同時に国内大手企業から、グーグルに対抗する大規模検索エンジンの開発プロジェクトを石井氏は持ちかけられた。石井氏はそのプロジェクトの可能性にかけ、法人格としてクーガーを設立することになったのだ。

「インターネットの中で最も重要な技術は、やはり検索エンジンだと思っていました。ネットにつながるだけでなく、検索で探せるからこそ大事な情報にたどり着けるためです。膨大なデータを集めて処理する課題を解決することに意味がある。私自身は、それほど技術に思い入れがあるわけではなく、むしろ実現させたい目的やヴィジョンがあり、そこから逆算して何ができるかということを常に頭に描いていました」(石井氏)

オンラインゲームからAI/ロボティクス、そしてブロックチェーンへ

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 そんな思いで一念発起してクーガーを立ち上げた石井氏だったが、そこには大きな波乱が待ち構えていた。

 「クーガー設立の初日に、パートナー企業の都合で、大規模検索エンジンのプロジェクトがなくなってしまいました。クーガーという器だけ残り、まったく白紙状態になってしまったのです」と同氏は苦笑する。

 ただ幸いにも、クーガーのように大規模システムの開発が行えるベンチャーは世の中にはほとんどなく、ソニーやスクウェア・エニックス、KDDIなどの大企業から大規模を前提としたオンラインゲーム開発やシステム設計の依頼が相次いだ。石井氏が、AI/ロボティクス分野に興味を持ったのはそのときだ。

「40年前から唯一AIを必要とした業界、それがゲームだ。対戦ゲームなどでは、かなり以前から仮想空間でAI/ロボティクスの技術が普通に使われていた」(石井氏)


 そこで2014年頃から、クーガーもAI/ロボティクス分野へ方向転換する。最初は動画の内容をリアルタイムで理解するAIエンジンを開発。アマゾンが主催する国際ロボットコンテスト「Amazon Robotics Challenge」のトップチームとも知り合い、ロボットの画像認識技術を共同開発するようになった。

 そのようにして、検索エンジンからAI、ロボティクスの技術に携わった石井氏。彼が「ブロックチェーン」という技術に行き着いたのは、“必然”だったという。

「AI、ロボティクス、IoTはすべてデータの奴隷のようなものです。ディープラーニングも最終的にデータ統計の話に帰結する。もし自分が一番手っ取り早くハッキングすると仮定したら、AIを狙わずにデータを狙うでしょう。データに従ってAIが育ってくれるからだ。そうなると、これからの時代はデータの信頼性が必ず求められるはず。そこで、データの信頼性を担保するブロックチェーンに目を付けたというわけです」(石井氏)

画像
クーガーのWebサイト。「AI」「IoT」「ロボティクス」「ブロックチェーン」と、最新技術が並ぶ

 石井氏の開発アプローチは、「原理・原則」をベースに考えていくこと。それさえ守れば、たとえ経験や知識が不足していても、要素を組み合わせながら、新しいものを生み出せるという。

 時は2016年後半、まだブロックチェーンは仮想通貨の利用ばかりが話題になっていたころだった。

世界は“カオス”、ブロックチェーンの現状

「2018年現在、日本ではブロックチェーンというとまだ仮想通貨の話になりがちだが、今、世界の動向は”カオス”」だ、と石井氏。国内最大級のブロックチェーン技術コミュニティ「Blockchain EXE」を主催する同氏の見立てによれば、一定の傾向があるという。

「金融が盛んなニューヨークでは認証型と非認証型のどちらがいいかという点で、ブロックチェーンの議論が沸いている。標準策定団体の“EEA”(Enterprise Ethereum Alliance)により、企業向けにプライバシーなどの要素を導入した〝Enterprise Ethfsereum”の開発も進行中です。また、通貨以外にブロックチェーンの汎用性を見据え、非中央集権後でユーザーID認証と共有を行う“uPort”や、電力売買を受給側で自動取引できるP2Pの仕組みも考えられています」(石井氏)

 シリコンバレーもブロックチェーンで盛り上がっているが、東海岸とは文化的な違いがあるようだ。「シリコンバレーはどちらかといえば“ようやく我々に自由が来た!”というノリです。データの民主化みたいな政治的な主張をしたがります。カウンターカルチャーの影響かもしれません」と語る。

 一方、ヨーロッパはドイツが牽引し、IoTとハード関連でブロックチェーンを活用する動きが強い。「ドイツはリアルワールドで適用させようとしています。主要プレイヤーが自動車メーカーと連携し、走行や車内のデータに対してブロックチェーンを活用しています。クーガーもドイツに近いアプローチです。日本の製造業と連携し、リアルワールドでの展開を考えています」と、石井氏。

【次ページ】「人工知能があらゆるところに存在する」未来は、ブロックチェーンにしかつくれない
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