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去る10月4日、CEATEC 2017において日本ディープラーニング協会(JDLA)発足記念シンポジウムが開催された。そのパネルディスカッションでは、協会設立の背景や日本の人工知能(AI)研究・AIビジネスの現状が議論され、先行する米国市場との違いや日本の課題が浮き彫りになった。協会はこの憂慮すべき事態にアクションを起こすべく設立されたのだが、協会の取り組みに懸念を感じる部分もあった。
なぜ日本のAIビジネスは遅れをとっているのか
ディープラーニングや機械学習などを活用した人工知能(AI)は、自動運転技術やビッグデータビジネス、オープンデータ活用、IoT機器と連携したホームエージェントなど、これからの成長産業に欠かせない技術として、世界中が注目し、新しい技術、サービス、製品が開発されている。
しかし、AI研究やAIビジネスにおいて日本企業のグローバルなプレゼンスは決して高いものではない。AI研究の最先端で活躍している日本人研究者やエンジニアからはお叱りを受けるかもしれないが、同様な議論がなされているはずの欧米や中国と比較して、日本におけるAI活用は限定的であり、積極性が感じられない。
ともすると、トロッコ問題やシンギュラリティのような高次の議論や、AIで失業者が増えるといったネガティブな議論ばかり活発で、現実的な応用やエンジニアリングに関する取り組みをないがしろにしていないだろうか。ことはAIだけの問題ではないかもしれないが、技術はあり、研究開発も遅れているわけではないのに、なぜ日本でAlphaGo Zero、Amazon Echo Alexaのような技術やサービスが生まれないのか。
建築や製造業でAI活用が進む理由
このような現状を受け、日本ディープラーニング協会(JDLA)は、ディープラーニングの産業活用促進、人材育成、公的機関や産業への提言、国際連携、社会との対話を広げることを目的に設立された団体だ。シンポジウムには世耕経済産業大臣からメッセージが寄せられ、協会設立の発表会は、学会、産業界のみならず政府の期待と成長戦略への意気込みが感じられる。
事実、協会の理事長には国内人工知能研究の権威のひとりである松尾 豊 東京大学特任准教授が就任し、理事にはエヌビディアの井﨑 武士部長他、東北大学 岡谷 貴之教授、早稲田大学 尾形 哲也教授、国内AIベンチャーのCEOや役員などが名を連ね、トヨタ自動車が賛助会員として参加している。
シンポジウムの最後には4名の理事によるパネルディスカッションが開催されたのだが、「なぜ日本のAIビジネスは遅れをとっているのか」というテーマで、突っ込んだ議論が展開された。
日本でも製造業を中心にAI活用は進んでいる。パネルディスカッションでは、佐藤 聡氏(クロスコンパス)や草野 隆史氏(ブレインパッド)らは、インフラの点検、ラインの異常検知、障害予想、品質検査を中心に、最近では感応検査などベテラン要員の業務も画像認識+ディープラーニングが活用されていると語る。もっとも、ベテラン要員の代替は、人手不足という深刻な問題が背景にあり、そのような外圧的な理由がなければAIを活用しないともいえる。これはこれで問題だ。
日本と海外の違いは「企業文化」と「知財戦略」
海外との違いや日本の企業経営に関する問題も指摘された。モデレーターである副理事の川上 登氏(IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス)による「日本企業と海外企業の違いは?」という質問に、草野氏は「一般論として、企業の情報システムとビジネス・経営の部分が遠い。ITを外注する傾向が多く、ビジネスの価値を生むITを回す部署、人材がいない」と言う。
佐藤氏は、実際のビジネスの現場での問題として、知財に対する考え方と、成果を利用する考え方の違いを指摘した。
「われわれはディープラーニングを活用してAIモデルを作っていますが、学習に使うデータは顧客のものとなります。出来上がったAIモデルを、顧客は『自分のデータを使ったんだから全部渡してほしい』と言う。しかし、AIアルゴリズムを考えパラメータをチューンして学習させたのは我々で、これは他のAIにも利用できるものです。この交渉や契約に数か月と時間をかけていると、海外ベンチャーに追いつけない」(佐藤氏)
さらに、AIは、計算結果の精度が十分高くてもそれを保証はできない。なぜそうなるかは時間をかけて学習モデルを解析すれば解明不可能ではないが、「その理由にこだわると限られた応用しかできない」とも佐藤氏は指摘する。これも、スピードという国際競争力が機能していない原因となっている。
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