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婚礼ビジネスの不振と、業績をV字回復した経験から、「婚礼ビジネスの再構築」と「観光ビジネスへの転換」に取り組む八芳園。これをけん引する同社 取締役専務 総支配人 井上義則氏は、ビジネスシフトに必要な要素は、「プロデューサー」の役割だと述べる。食に対する新たなアプローチなど、八芳園が仕掛ける「次の一手」について井上氏が語った。
八芳園が注力する「食」への新たなアプローチ
井上氏は観光のインバウンドに有効な「日本文化の観光コンテンツ化」を進めている。「食」に対しても流のおもてなしをするためにさまざまなアプローチを試みている。
たとえば、宗教や主義に対する配慮、つまりヴィーガニズム(絶対菜食主義)や、イスラム教におけるハラル、さらには低アレルギーやグルテンフリーなどへの取り組みだ。
特に、食品の表示問題とトレーサビリティには「テクノロジーの活用の余地があり、サービスを向上できるはず」と井上氏は指摘する。
「日本は食品の品質は優れているものの、食品の表示と安全性に関する透明性確保については、まだまだ課題あると思います。この領域でITの力を使い、よりきめ細かに食の安全性をアピールすることが可能になれば、観光資源として日本の食文化の強みが、さらに強固なものとなると確信しています」(井上氏)
たとえば、原発事故の風評被害で悩む福島県で実施した、福島産の食材の安心・安全をアピールする取り組みもこの一環だ。
「まだまだ福島産の食材を怖がる海外の方は多いです。一方、福島県は、農林水産省の農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドラインに準拠し、福島県独自の基準でGAPを実践する生産者を認証しています」(井上氏)
この、「ふくしま県GAP(FGAP)認証制度」をアピールする取り組みとして、八芳園では、福島県野菜を粉末状にして「きんつば」に加工、ギフトボックスに仕立てた。そして「このきんつばは、日本中のどこよりも優れた環境で育った食材が使われており、きちんと第三者認証も取得している」ことをアピールするコンテンツ化の取り組みを続けている。
「食」×デジタルで何ができるか
さらにデジタル領域での「食」に関する新たな取り組みとして、井上氏は「食のアプリ」を紹介してくれた。「『フードエデュテーメント』(「Food」「Education」「Entertainment」が入り混じった造語)というコンテンツで、分かりやすく言うと『食のTED』のようなもの」だと井上氏は話す。
たとえば、自然栽培農法に取り組む農家がプレゼンターとなり、プレゼンを行う。会場には農家が育てた食材が運ばれ、ディナーショーのようにゲストの人たちに振る舞われる。
「一般的な慣行栽培で育てられたトマトと、自然栽培で収穫したトマトの違いをビジュアルで紹介し、その食べている人たちも含めた映像がアプリで視聴ができるというものです」(井上氏)
食のアプリを推進する背景には、アトピーやアレルギーを持つ子どもが増えていることがある。「アレルギーのせいで、せっかくのクリスマスケーキが食べられない。だから、アレルギーの原因食物である、卵や小麦に関する、食の安全性を、特に女性に向けて発信していきたい」という思いがあるのだ。
インバウンド、アウトバウンド双方の「ハブ」として
井上氏は、観光のコンテンツ化を通じて、地方創生にも貢献したいと述べる。「次の世代のために何を残すか。たとえば、地方には必ず神社があり、そこには神話がある。そこに衣食住などの文化的要素をすべてミックスしたコンテンツにつくり上げていきたい」というのだ。
そしてそのことが、地方産業の後継者問題解決の糸口になってほしいと井上氏は語る。地方と海外の人的交流取り組みとして、井上氏は福岡県大川市の事例を紹介した。
大川市は代表的な日本の家具生産地として知られる“木工の町”だ。しかし、近年は家具の需要が減り、職人たちも後継者不足で店を畳むケースが増えているという。
八芳園は大川市と包括的な提携を結び、2018年11月には「Craftsman's Day(クラフトマンズデイ)」という大川職人の伝統工芸イベントを開催した。 国内外から数多くのゲストを招き、特にフランスのデザイナーと大川の職人によるコラボレーションで新たな価値を生み出す取り組みだ。
「レセプションホールは神社をお借りし、神社の風浪宮をダイニング会場に変えました。オール地元の素材、地元の人で、八芳園が加わることでともに魅力を発信していく。観光が、単に土地のモノを売るだけではなく、人を呼ぶということによって地域全体が潤う可能性があるということを、大川市の事例は示していると思います」(井上氏)
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