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競争力の源泉である生産管理システムは徹底して自社開発にこだわる一方、G Suiteの導入やモバイルアプリの独自開発など、クラウド・モバイルの活用を積極的に推進しているフジテック。前編に続き、クラウド、モバイルへの具体的な取り組み、IoT戦略、IT人材への投資の考え方などについてフジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二 氏に聞いた。
前編はこちら(この記事は後編です)
(聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司)
CIOに就任後、すぐにG Suiteを導入し、BYODをスタート
──2014年にCIOに就任されて、「武闘派CIO」として名を馳せていますが、就任後の活動についてお聞かせください。
友岡氏: もともとこの会社に入りたいと思った大きな理由が、IT子会社がなくて、自分たちで内製していたことです。もちろん、開発リソースが足りなくて外部のリソースを一時的に活用することはありますが、特定のSIerとの継続的な関係はなく、まったく独立していたのです。自らコーディングできる部門ですから、テクノロジーのレイヤーをもう一段上げることができれば、非常にモダンな情報システム部門になれると感じたのです。
就任後は、どこから手を付けるべきかを考えました。そして、会社全体を見渡したとき、建設現場でエレベーターを設置しているときやエスカレーターを保守・修理しているとき、つまりオフィスの外でお客さまと直接接しているときが、我々の付加価値が創造されている瞬間だと気づきました。
ところが、当時はノートPCの持ち出しは許可されていたものの機動性に乏しく、実質的には紙を持っていくケースが多かったのです。そこで、すぐにG Suiteを導入展開し、BYOD(私物の持ち込み)を認めました。すると、約1年半が経過したころには、外勤社員の約54%にBYODが広がったのです。その後、スマートフォンのネイティブアプリも導入しました。
──そのアプリも内製したのですか。
友岡氏: はい。最初はG Suiteからスタートして、Googleドライブの活用が始まりました。さらに、勤怠管理のアプリや旅費精算のアプリを自社開発し、現場の課題をヒアリングしながら、それを解決するモバイルアプリを順次開発しているのが、現在の状況です。
モバイルとクラウドによってITを最新のものにして、現場で働く従業員が、現場から離れることなく、現場で必要な情報を手に入れられる取り組みを継続しています。
開発はオープンソースのモバイル開発フレームワークであるApache Cordova(コルドバ)を採用しました。開発ツールにはMonaca(モナカ)を使っています。Monacaを使ったのは、大手の企業としては、かなり早いほうだったのではないかと思います。エンジニアにとってスマホアプリの開発は非常に面白い取り組みだったようで、やってみたいと手を挙げた何人かのメンバーに、先陣を切って開発してもらいました。
「力ずくIoT」で現場の経験値を上げる
──デジタルビジネスの推進という観点で、IoTも含めて、ビジネスモデルそのものを変革しようとする動きが加速しています。御社の場合は、そうした取り組みは進めているのでしょうか。
友岡氏: 将来の可能性としてはあると思いますが、今すぐ、お客さまにメリットのある形で提示できるかというと、まだそこまでは見えていません。
ただ、今後、データが価値を持っていく中で、建物全体の効率的な運用といった観点で、エレベーター・エスカレーターを他の設備といろいろな形で連携するニーズは確実に出てくると思います。
したがって、データをしっかりと蓄積し、利活用できる準備をしておくことは、第一ステップとして重要だと考えています。その意味でも、基盤をクラウドに寄せておけば、将来的にはAPIを含めた連携も容易だろうと思います。
──IoT関連では、収集した情報をAPIで公開してマネタイズにつなげる取り組みも注目されています。実際に、エレベーターやエスカレーターはネットワークにつながるのでしょうか。
友岡氏: 実は非常に古くからやっています。そもそも、以前から通信回線を通じて遠隔監視をしているセンターに運行情報が集約されており、異常があればアラートが鳴ってフィールドエンジニアに伝わる仕組みだからです。
IoTのマネタイズに関しては、まず我々がやるべきことは、新しいサービスでお金をもうける以前に「安全・安心」です。そこをより確実にするために、フィールドエンジニアをサポートすることが先です。特に日本全体で人が減っていく中、できるだけ自動化・省力化を図らなければならないと考えています。
たとえば、エレベーター・エスカレーターの電圧を測定する「メモリハイコーダー」という機械があります。通常は、これにSDカードを挿して、2ヶ月くらい現場に置き、回収後にSDカードを取り出して解析するのですが、我々はいま、Wi-Fiに接続できるFlashAirのSDカードとソラコムのSIMを挿して、データをリアルタイムに取得する仕組みを検証中です。
無理矢理つながっていない機器をIoTデバイス化するという意味で「力ずくIoT」と呼んでいるのですが(笑)、こういった経験を積み重ねることで我々の経験値が上がり、自信につながるのです。
コミュニティへの参加と積極的なアウトプットを推奨・支援
──今は、多くの企業が人材不足に頭を悩ませています。IT人材への投資という意味での取り組みがあれば、お聞かせください。
友岡氏: モバイルアプリの開発にしてもメモリハイコーダーの例にしても、テクノロジーそのものは、我々が作ったわけではありません。要素技術は外から調達しなければならないので、最も活きの良い、現場に役立つ素晴らしいネタを、いかに仕入れるかが重要です。昔なら大手のベンダーが最新技術を提供していたので、彼らと親密になって、そこから最新情報を教えてもらっていましたが、今はそのような時代ではありません。
ではどうするかといえば、使っている人から直接聞くのが一番です。イケてるユーザーと知り合うには、やはりコミュニティに参加することです。AWS(Amazon Web Services)であればJAWSがありますし、グーグルにもユーザー会がありますので、そこに参加して、面白い使い方をしている人たちに話を聞くのです。
ですので、弊社では、社員が週末にユーザー会に参加するときは、すべて出張扱いにして出張費も払っていますし、平日に代休も取得できます。さらに、ただ参加するだけではなくて、登壇して積極的にアウトプットすることも推奨しています。
──会社として、コミュニティへの参加を積極的に支援されているわけですね。
友岡氏: はい。Google MapsのAPIでアプリケーションを開発したメンバーなどは引っ張りだこで、あちこちでしゃべっていますよ。社外でアウトプットすることは、とても自信になるのです。かつ、人の役に立てるのは本人にとってもプラスですし、会社にとっても、社員がいろいろな形で露出するのはプラスです。人を採用する立場からすると、会社に魅力を感じてもらうきっかけにもなります。
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