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エレベーター、エスカレーターの専業メーカーであるフジテック。早くから海外に進出し、世界各地に営業拠点、生産拠点を設けている。直近でも、2022年北京冬季オリンピック・パラリンピック大会の競技会場に設置される世界最長のエレベーターを受注するなど、グローバルでのビジネスを加速している。同社のIT戦略を支える常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二 氏に基幹システムへの取り組みやクラウド戦略を聞いた。
(聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司)
都市機能の一部を担うエレベーター・エスカレーターの専業企業
──まず、フジテックについて、どのような会社なのか特徴も含めてお聞かせください。
友岡氏: エレベーターとエスカレーター(昇降機)を作って、それを安全・安心にサービスとして提供している会社と説明するのが分かりやすいかもしれません。ただ、我々は昇降機を「都市機能の一部」ととらえています。都市が高層化すれば、昇降機は生活のインフラになります。都市機能の一部であるその昇降機の事業を通じて、世界に貢献していくことをビジョンとして持っている会社です。
最大の特徴は、昇降機に特化し、その開発から製造、設置、アフターサービス、リニューアルまで含めて、一気通貫で提供している専業メーカーであることです。
普通の人は、昇降機のメーカーはあまり気にしないと思いますが、たとえば有名なところでは、ホームページでも紹介しているように、銀座のGINZA SIXさまに弊社のエレベーター・エスカレーターを合計84台納入しています。
──国内拠点やグローバル展開についてもお聞かせください。
友岡氏: 大阪で創業し、事業拡大に伴って本社を滋賀に移転しました。滋賀の本社は研究開発とエレベーターの製造拠点で、兵庫の豊岡にはエスカレーターの製造拠点があります。また、国内には120カ所以上のサービス拠点があります。
グローバルでは、やはり中国が重要な市場であり、今後発展が見込めるインドにもビジネスを展開しています。長いスパンで見て、海外で勝負できる企業であり続けることが、我々の商品を使っていただいているお客さまに対して、よりよいサービスを提供できる安定した経営基盤を担保することになると考えています。
──成長市場の中国市場などではシビアな低価格競争も始まっています。
友岡氏: 確かに価格に対しては非常にシビアですが、今あるものを安く売るのではなく、価格と性能のバランスがとれた商品を提供し、お客さまに選ばれることが重要だと考えています。そのために、グローバルなサプライチェーンの整備、それに伴う集中的な調達、バックオフィスの生産性向上など、1つ1つの地道な取り組みを積み重ねて筋肉質な体質にすることが必要です。
一方で、やはりメイド・イン・ジャパンに対する信頼、日本企業に対する期待の声は、海外において非常に高いのも事実です。特にハイエンドでランドマーク的な建物や高級ホテル、大型のショッピングセンターなどにおいては、日本製のエレベーター・エスカレーターへの期待が大きいですね。
"背骨"となる生産管理システムを独自に開発・運用
──これを支えるうえでITはなくてはならないと思いますが、IT部門の取り組みについてお聞かせください。
友岡氏: これまでは、どちらかというと「地産地消型」でした。すなわち、中国や韓国などの各地域に生産工場があり、それぞれが独立してオペレーションしていたのですが、現在は相互に依存する分業体制の構築を進めています。独立したサイロだったのが、水平的につながっていきますので、ITはその神経系統ということになります。
具体的には、商流、物流、金流などをITで可視化しないと、オペレーションが回りません。現在は3カ年の中期経営計画の取り組みとして、グローバルネットワークを整備して、グローバルのサプライのチェーンを完成させることが、取り組みの柱となっています。
──日本のものづくりの強さは現場、つまり工場にあると思いますが、そこに横串を刺していけるものでしょうか。
友岡氏: 日本のものを作る力、現場力は本当に素晴らしいと思います。ですので、その現場力を、中国や韓国などの他の地域にも同じように伝播していくことが重要だと考えています。日本はこう、中国はこう……とやっていたら、ひとつにはなれないわけです。
ですので、まずは背骨を合わせるという意味で、日本で生産管理システムは独自に開発し、それを中国や韓国の工場に導入・展開してきました。現在、生産工場はアメリカ、日本、台湾、インド、中国などに合計10拠点ありますが、設計情報やグローバルサプライチェーン情報に関しては日本で自社開発したシステムを導入しています。
計画的にクラウドにシフト、最終的にはオンプレは限りなくゼロに
──IT部門の規模とグローバルでの体制についてお聞かせください。
友岡氏: 日本が最も多く、あとは海外拠点ごとに現地担当者を配置してもらっていますが、やはりすべての拠点にIT部門を置くのは難しいので、日本側からできるだけシェアードサービスで提供する形をとっています。それにより、全体の底上げと高位平準化、そしてコスト削減を目指しています。
たとえば、メールシステム1つとっても、各拠点でメールサーバを持つのはムダですから、順次、グーグルのG Suiteに置き換えました。最近はAmazon Web Servicesを活用して、たとえばアメリカ向けのサーバを我々が構築し、それを現地に提供してオンプレミスのサーバを徐々に減らす取り組みも進めています。
──クラウドに積極的に取り組まれていると思いますが、前述の生産管理システムもクラウドで運用されているのですか。
友岡氏: 生産管理システムをはじめとしたレガシーシステムは、オンプレミスで動かしています。ただし、戦略的にハイブリッドクラウドを選択しているわけではありません。できればすべてクラウドに寄せたいと考えていますが、インターネットが登場する以前に作ったクライアントサーバ型のアプリケーションは、やはりオンプレミスに縛られるのはやむを得ません。
クラウド化は手段であり目的ではありません。無理にクラウド移行しても経済合理性のないアプリケーションに関しては、ある程度の長期間で計画的にアプリケーションのモダナイゼーションを進め、インフラもクラウドにシフトして、最終的にはオンプレミスのシステムは限りなくゼロにしたいと考えています。
【次ページ】ERPパッケージがIT部門を「根腐れ」させた
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